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特集

持続可能な農業・農村へ

北海道当別町にあるファームエイジの小谷栄二氏は、約30年前、ニュージーランド式の放牧を日本に導入した。日本では1頭当たりの生産性を上げても経営が厳しいのに対し、ニュージーランドでは1頭当たりの生産性は低くても経営が成り立つと気づいたからである。以来、家畜の放牧から、獣害対策や野生動物の有効活用、移住者の受け入れへと活動の範囲を広めていった。その目的は、日本の農業・農村を持続可能な仕組みに変えることにある。小谷氏の理想に共感し、先陣を切って新たな時代を切り拓こうと挑戦してきた人々を取材した。 (取材・文/平井ゆか)

Part1
パイオニア
持続可能性が高い
ニュージーランド・スタイル

小谷 栄二氏(58)ファームエイジ(株)代表取締役

牛も鹿についても、ニュージーランドからインパクトを受けた。ニュージーランド式酪農の普及に努めて30年あまり。農業を変えるためには農村が変わらなければならない。

【豊かなニュージーランドの酪農と出会い】

私は、現在の会社を設立する30年ほど前まで、米国式の酪農を普及する仕事をしていた。1頭当たりの搾乳量を増やせば増やすほど儲かる。頭数を増やせば増やすほど儲かる。搾乳量と頭数が多い人がいちばん偉い。そう信じていた。しかし、ニュージーランドの酪農に出会ったことが私の転機となった。
ニュージーランドで私が見たのは、当時の日本の酪農とは全く別の世界だった。酪農家の自宅を訪ねると、テニスコートやプールがあり、きれいなドレスを着た奥さんがイングリッシュティーと手づくりのクッキーでもてなしてくれた。聞けば、年に2、3カ月、海外旅行に行く酪農家も多いという。例えるなら、ニュージーランドの酪農家は、日本での医者と同じようなステータスであり、憧れの職業だったのである。
経営内容を見ると、ニュージーランドでは搾乳日数が少なく、1頭当たりの年間搾乳量は日本の半分にとどまる。乳価は、先進国のなかでも最も乳価が高い日本に比べて、いちばん安い。それなのに、経済的にも時間的にも余裕がある暮らしをしている。その理由は、短時間労働かつ低コストで済むような牧場設計のノウハウにあった。
日本では、酪農家は1年365日、24時間拘束され、奥さんも働き手である。飼料は輸入した穀物飼料を買って与え、乳量を競っている。それでも利益は少なく、離農者は多く、子供たちも跡を継がず、新規就農者も少ない。
「日本の農業を変えたい」
私は、ニュージーランド式の酪農を日本に導入しようと、牧場設計に必要な電気柵の会社を立ち上げた。1985年のことである。

【全体設計された放牧で豊かな酪農へ】

当時、日本でも放牧は行なわれていた。しかし、ニュージーランド式放牧が日本の仕組みと決定的に違うことがある。それは、人手とコストをかけないように、全体のシステムがきちんと設計されている点である。システムの概要は次のとおりである。

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