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2回目の米の受難は、1958年に慶応大学医学部教授が「米食をすると頭脳が悪くなる」と提唱したことに始まる。頭を働かせるためには反応を活発化させるための補酵素であるビタミンB1、B12を摂る必要があり、米ぬかが削られた白米を食べるよりパンを食べたほうが摂取できるから、という理由だったようだ。実際には、100g中のビタミンB1は食パンで0.07 mg、白飯で0.02 mgと僅差であり、1日推奨量である成人男性1.4 mg、女性0.9 mgには到底足りないことでは小麦も米も同じである(なお、玄米飯は0.16 mg、発芽玄米飯は0.13 mg)。それにもかかわらず、「白米にはビタミン類は少しも入っていないが、パンにはかなり入っている」「子供の主食だけはパンにした方がよい」と議論が徐々に飛躍し、キッチンカーによるパン食とフライパン料理などの試食会と講演会には教授もしばしば動員されたという。それでは、米食中心だった頃の日本人はどのようにビタミンB1を摂っていたのだろうか。宮沢賢治のいう「一日ニ玄米四合ト味噌ト少シノ野菜ヲタベ」をもとに考えると、炊飯した玄米4合約1,400gに含まれるビタミンB1は2.24 mgと1日推奨量をクリアできていたのだ。もっとも、精米した白米を食べていた江戸では脚気が増加し、その「江戸患い」は蕎麦を食べると治ることが経験的に知られていたようだ。
そして3回目が、ここ数年の糖質制限である。糖質制限と言っても、過剰な糖質摂取を制限しようというものから総カロリーの5%まで炭水化物の摂取量を一時的に抑えて代わりに肉による脂質を摂る極端なものまで様々なレベルがある。一部の研究では肉の多量摂取は肉に含まれるヘム鉄によりインスリンを分泌する細胞にダメージを与えるという報告もあり、炭水化物を肉に置き換えることについては慎重論も多い。とはいえ、糖質制限パン・麺に主食の座を奪われないよう、欧米人に比べインスリン分泌量が少なく筋量も少ない日本人に適した米の健康食を考える必要がある。
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松田恭子 マツダキョウコ
(株)結アソシエイト
代表取締役
日本能率協会総合研究所で公共系地域計画コンサルタントとして10年間勤務後、東京農業大学国際食糧情報学科助手を経て農業コンサルタントとして独立。実需者と生産者の連携の仕組みづくりや産地ブランド戦略を支援している。日本政策金融公庫農業経営上級アドバイザー試験合格者。(株)結アソシエイト代表取締役。
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