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図2は、16年7月に採取した慣行区と試験区の土壌診断図である。上記のような理由で可給態リン酸は両区ともに300mg程度まで低下していたが、試験区に比べて慣行区のpHが低く、電気伝導率が高かった。ハウス土壌ではこのような現象は珍しくなく、硝酸態窒素の蓄積に起因することが多い。しかし、この事例では硫酸イオンの蓄積がその原因であった。陰イオンである硫酸イオンは土壌コロイドに吸着されにくいため、水溶性イオンとして存在し、電気伝導率を高め、pHを低下させる。その結果、フザリウムなどの低pHを好む土壌病原菌の感染、あるいはマンガンイオンが活性化してマンガン過剰症などが発生している。硫酸イオンが蓄積する原因は、化成肥料や配合肥料原料として硫安や硫酸カリを使うこと、塩素イオンに比べると下層へ移動しにくいことなどが考えられる。今後、肥料製造業界には園芸用複合肥料原料の見直しを求めたい。硫酸イオンの成分であるイオウは植物生育に不可欠な多量必須要素のひとつであるが、過ぎたるは及ばざるがごとしだ。
2. 園芸土壌とは対照的に
地力低下が進む水田土壌
園芸土壌のメタボ化が進んでいる一方で、全国の水田では地力の低下が著しい。その一例を紹介しよう。11年の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故で、放射性セシウムが拡散して福島県内で基準値超えの玄米が出てしまった。図3に福島県伊達地域での水田土壌中の交換性カリと可給態リン酸量を示す。黒丸の水田から収穫した12年産玄米から50 Bq/kg以上の放射性セシウムが検出された。それらの大半の水田では交換性カリが10mg以下と少なかった。通常、この値が25mg以上であれば、放射性セシウムの吸収を抑制できることが明らかになっている。この地域は夏秋キュウリの大産地でもあり、水田で出た稲わらを持ち出してキュウリ畑やハウスにマルチ材を使っていることが一因と思われた。福島県の土壌診断基準値はカリ飽和度で2~10%となっているので、定期的な土壌診断分析を行ない、その基準の中央値程度以上になるような施肥管理を行なっていれば、放射性セシウムの吸収を抑制できた可能性が大きい。水田では土壌診断分析結果に基づいて不足するカリやケイ酸を肥料で補うべきであるが、その前にわらやもみ殻を還元する、あるいは耕畜連携により畜産農家に提供したわらから作られた堆肥を施用することが土づくりの基本だ。
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後藤逸男 ゴトウイツオ
東京農業大学 名誉教授
全国土の会 会長
1950年生まれ。東京農業大学大学院修士課程を修了後、同大学の助手を経て95年より教授に就任し、2015年3月まで教鞭を執る。土壌学および肥料学を専門分野とし、農業生産現場に密着した実践的土壌学を目指す。89年に農家のための土と肥料の研究会「全国土の会」を立ち上げ、野菜・花き生産地の土壌診断と施肥改善対策の普及に尽力し続けている。現在は東京農業大学名誉教授、 全国土の会会長。
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