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日本文化に憧れて日本への出稼ぎを選択する人もいるであろう(日本のソフトパワー)。しかし、欧米先進国はもちろん、発展途上国も経済成長著しく、日本の優越性は相対的に低下している。この変化が案外に認識されていないのではないか。加えて、賃金面でも日本は次第に不利になってきている。技能実習生の受入れで、日本の国際競争力は“低下の方向”にあることを認識すべきであろう。
もちろん、競争力の低下で、すぐに受入れ難が起きるということではない。中国内陸部、ベトナムとも、まだ供給圧力は高い。さらに、フィリピン、インドネシアも続いている。競争力低下はじわじわと影響してくるということであろう。ただし、国際競争力が低下すれば、出稼ぎ希望先としての日本の順位が低下し、日本行き希望者の人材の質に影響が出てくるかもしれない。
2 中国からの出稼ぎ労働者の減少
中国は今のところ、出稼ぎ労働者の送出し国であるが、沿海部上海はその役割を卒業し、賃金は日本より高くなってきた。上海市の平均年収は11万9935元である。12で割った月収は9995元である。日本円換算で16万373円(16年)。
これに対し、日本の最低賃金(全国加重平均)は時給848円、月給換算14万5290円である(17年。16年は14万1008円)。上海の方が高い。ただし、この比較は上海は“平均年収”ベースの1月換算、日本は“最低賃金”ベースである。(注、技能実習生など日本で就業する外国人雇用者の賃金は最低賃金が基本になる。「最賃」同士の比較では日本は上海より高いが、その差は次第に縮小している)。出稼ぎ収入という点では、日本の魅力は低下してきている。
近年、中国の出稼ぎ労働者数(労務合作)は年間26万~29万人で横ばいである(表1)。しかし、日本への送出しは減少トレンドにある。16年には4万人を割った。かつて日本向けは中国の出稼ぎ労働者の約3割を占めていたが、現在は13%台に低下している(対外労務合作の派出数)。中国の出稼ぎ労働者に、日本は必ずしも歓迎されていないのである。日本より、香港やマカオが選好されている。
図2は、日本の法務省の在留外国人統計であるが、中国からの技能実習生は減少している。11年には10万人を超えていたが、17年6月現在は8万人である。11年当時は技能実習生の75%は中国人であったが、現在は30%近くまで低下している。現在、一番伸びているのはベトナムで、16年に中国を追い抜き、トップになった。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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