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特集

追悼 松尾 雅彦 後編


松尾 米国の州立大学はその州の主要な農産物の研究所を持っていて、現場の生産の指導をする責任を負っています。米国では1970年頃に市場が加工食品に大きく変わりました。ハンドリングも含めて、いままでのやり方が通用しなくなりました。たとえばアイダホ州では生産者が1セントずつお金を出し合ってリサーチセンターをつくりました。また、ジャガイモの研究所は、産地でもあるワシントン州立大学が最初で、生産者はそこに問い合わせしながら仕事することができます。カルビーの工場はオレゴン州にありますが、こっそりワシントン州に行って指導を受けてくるわけです。
小川 オランダもそうですね。ワーヘニンゲン大学の農学部はフードバレーという研究拠点を持っていて、農業だけでなくマーケティングまでやるんですよね。
松尾 ノースダコタ州とミネソタ州の大学では、ジャガイモの育種から貯蔵まで自分たちでやっていて、試験をやれる工場もあります。住民や農家の相談にも答えられて、食品加工業者からの相談にも乗れる。まさにエクステンションセンターの役割を果たしています。
--カルフォルニア州立大学には三つの分校に農学部がありますが、野菜の需要が伸びていくなかで、農学部で全自動のハーベスターの開発を始めたそうです。ところが移民の労働力が確保できるので、全自動より横送りコンベアの付いた運搬車のほうが経済的だという声が現場の経営者たちから挙がると、大学の研究者たちは開発の方向性をすぐに変えました。つまり、米国の大学は現場の経営や現実のマーケットと非常に結びついているわけです。
松尾 コーネル大学の場合は、ニュー
ヨーク市民のチャレンジャーのための大学ですから、大企業には一切教えません。そこはハッキリしています。地域社会を壊すのは大企業ですから。
小川 なるほど、大企業は自分でやれと。自力でやれますからね。
松尾 農家は地域に密着していますから大企業にはなりません。最近流行りのITを使って生産管理からマーケット管理までできるシステムがオフィスに用意されていて、独り立ちできるまでサポートしていますよ。もちろん農場もありますから、栽培も指導できますし。
--米国のエクステンションセンターでは普及員が同時に研究者でもあって、医学で言えばまさに臨床の場になります。大学の農学部が現場と関係していないというのは、先進国のなかでは特殊なケースですね。
小川 若い研究者には、地域、地方の農学部なのだから公共心を持ってもらって、松尾さんが希望するような自分の業績だけじゃない人が出てこないと困りますね。

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