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【農業は先進国型産業になった!】
外国人実習生の現地ルポ 実態と課題と展望 第1回 3・11の時も中国人実習生は帰国しなかった 東日本営農事業協同組合
- 評論家 叶芳和
- 第13回 2018年04月26日
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1 震災直後に、コメ15 kg、肉15kg届ける
3・11直後、中国人実習生が消えた。放射能汚染災害を恐れた中国大使館が引き上げを勧めたからだ。一斉帰国された雇い主・農業経営者は困り果てたものである。それを契機に、東日本では技能実習生はベトナム人にシフトした。
しかし、実習生監理団体H組合(後述)は当時60名の中国人実習生がいたが、一人も帰国しなかった。なぜか? 実習生への思いやりがあったからだ。H組合の技能実習担当・末吉昭雄氏(1949年生)は普段から、「実習生が一番落ち着くのは腹が満ちた時」と思っていた。大震災の発生で皆の気持ちが不安定になっていることを察し、彼らに食料を届けることを考えた。
直ちに、1人当たりコメ15kg、肉15kg(豚小間)を、傘下の実習生170人全員に配った。そのあと、ニンジンやダイコンも届けた。あの2週間は、それを配るだけだったようだ。
こうした思いやりに対し、実習生も「日本人が困っているのに、自分たちが帰るのは恥ずかしい」と言ってくれたという。震災直後、周辺の中国人は一斉に帰国したが、H組合傘下の60人は結局、帰国者ゼロだった。
末吉氏の会社は以前から、実習生向けに現地の食材を取り寄せる「食材サービス」も行なっていた(技能実習生斡旋+食材供給サービス)。「3年間、帰国しないで異国の地で働いていると、郷愁から、現地のものを食べたいと思うだろう」(末吉氏)と考えたからである。“現地食材の取り寄せ”サービスは、H組合だけのことらしい。ほかの監理団体はこんな面倒なことまでやらない。
現地食材だけでなく、肉のカタログ、ソースのカタログと、コメから肉までラインメールで注文を受け、すぐ届ける。また、東南アジアの人たちは内臓関係が好きと分かり(例えば鶏もみじなど)、それも調達した。卵も、実習生受け入れ農家に養鶏農家がいるので組み合わせた。市販より安く提供した。
書類上の管理だけではなく、実習生の気持ちを考えた食材サービスなどを通して、彼らとのコミュニケーションに努めていた。その実績に加え、震災直後のコメ15kg、肉15kgだったので、中国人は一人も帰国しなかったのである。温かい、思いやりのある扱いが背景にあった。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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