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新・農業経営者ルポ

二宮尊徳の訓えが息づく農村の経営者

「報徳社」という組織をご存じだろうか。二宮尊徳の訓えを伝え、実践するため、1875年に静岡県掛川市で設立され、いまでは全国各地に住民主体で運営する支部が存在する。今回の主人公は、その支部の一つである杉山報徳社(静岡市清水区)の青木悟だ。柑橘を中心に経営する一方で、その利益を社会に還元する取り組みをしている。 文・撮影/窪田新之助、写真提供/青木農園
2018年3月某日、筆者は東京農業大学(以下、農大)が神奈川県厚木市にあるキャンパスで開催したシンポジウムを傍聴していた。その内容は本稿とは関係がないのでさておくとして、シンポジウムの最中に印象的だった出来事がある。それは、登壇者の教員が農大による東日本大震災の復興の支援を振り返ったときのことだ。農大のPTAに当たる教育後援会の会長としてそれに携わったということで、突如、筆者の横に座っていたOBの名前を呼んだ。その男性が住んでいる静岡市清水区杉山には「ホウトクシャ」が存在することに触れたうえで、復興の支援に向かうバスの中で彼が語ったというこんな逸話を紹介した。
「あれは往きのバスの中だったか。『我が家は1000万円のもうけがあれば生活できる。でもそれだけでは駄目で、1200万円の目標を持って農作物をつくっている。1200万円もうけたうち、200万円は社会に役立てよう。それがホウトクの訓えだ』と」
仕事柄多くの農業経営者に会ってきたが、社会に寄付することを前提に売上目標を決めていると聞くのは初めてだったため、新鮮な驚きを受けた。「ホウトクシャ」とは「報徳社」だろうが、いったいどんな活動をしているのか。気になって仕方がない。
そこでシンポジウムが終わった後、横の男性にすぐさま声をかけた。それが青木だった。そして、遠からぬうちに杉山で会う約束をした。

燃料革命で柑橘とタケノコ、茶へ転換

しばらくして訪ねた杉山は、静岡市清水区の清水いはらインターチェンジから車で数分の山間の集落だった。集落を縫って走る川は、前夜からの大雨で水かさを増し、濁流と化している。それを横目に奥へ走っていくと、途中で外壁に「報徳社」と書かれた二階建ての建物を見つけた。さらに行くと小高い場所に旧校舎を残したままの夜間学校の跡地があり、道沿いには薪を背負いながら読書する二宮金治郎像が立っている。車から降りて煙っている山を見渡すと、柑橘園と竹林、茶畑が点在していることを確認できた。

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