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直面する困難に対して積極的に対策を打てるのは、構成員が少ないからである。自治体も農協もコンパクトで顔の見える関係だから、互いのニーズも掴みやすく、農協もそのニーズに寄り添うことができる。こうした「とことん田舎」ほど、農業経営者と行政、農協などの関連団体が連携をとりやすい。そのなかに、その利点を活かして攻めの姿勢で合意形成を進めるリーダーがいれば、A町のように恵まれた経営環境が整うというわけだ。
愛着のある地域の商店がなくなり、若年層が街に移住し、高齢化が進むのは、農村に暮らす当事者にとっては寂しいことで、暮らしの利便性を考えれば死活問題でもある。離農が進んで個々の経営面積が拡大することは産業として伸びるチャンスにもなり得ると考えるほうが健康的である。住み心地の良い田舎では農業の後継者が多く、規模拡大が遅々として進まないことに照らせば、「とことん田舎」のほうが農業の適地といえよう。一方で過疎に直面する地域の消費量は限定的である。当然、地産地消など考えずに、農産物の価値に見合った市場に出荷する方策を練るべきである。
「そこそこ田舎」の盲点は消極的な農業振興策か
ここでいう「そこそこ田舎」とは、大手量販店が店舗を構え、人口が数万人程度いる自治体を指す。東京などの都会から見れば田舎だが、住民にしてみれば割と便利で住みやすいと感じている地域である。保育所に始まり、学校、福祉・医療施設などのアメニティーも充実している。そのなかに拠点を構える農業経営者たちも、そこそこ良いところだと思っているはずである。B市を事例に挙げて概要を図3に示した。先ほどの図2のA町と比較しながら、あれやこれや述べてみたい。
まず地勢を見てみよう。いずれも水田地帯だが、約8割を森林が占めるA町に対して、B市は平地が多いのが特長だ。大河川の下流域に位置し可住面積が広いため、人が定住しやすい環境といえるだろう。B市の人口は近年横ばいで、高齢化も極端に進行していない。農業以外の産業もあり、人口減少が著しいA町と異なり、自治体が消滅する不安はなさそうだ。
次に自治体のお財布を覗いてみる。わかりやすいところでは平成30年度の一般会計予算額を人口で割った住民1人当たりに使われる金額で比べてみるとよい。特定農山村のA町のほうが約2倍近い金額になっている。財源の半分以上が地方交付税で、道路や住宅、下水道の整備、防災、主要産業である農業の振興に多く使われる計画だ。この財源が特産品づくりや農業を軸にした産業振興につながるなら、頑張る農業者にとって幸せなことである。
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齊藤義崇 サイトウヨシタカ
1973年北海道生まれ。栗山町在住。昨年、普及指導員を退職し、実家の農業を2014年から営む。経営は和牛繁殖、施設園芸が主体。普及指導員時代は、主に水稲と農業経営を担当し、農業経営の支援に尽力した。主に農業法人の設立、経営試算ソフト「Hokkaido_Naviシステム」の開発、乾田直播の推進、水田輪作体系の確立などに携わる。
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