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「利払い圧縮」の影響は相当深刻なものがあるはずだ。まず農協経営を直撃する。農林中金からの利息で事業を成り立たせているからだ。農協経営の屋台骨が揺らげば農協改革の方向も変わってくる。何よりも重要なことは、農林中金の将来方向も変わってくるはずだ。信連との経営統合、そして農協の信用事業分離にも重大な影響を及ぼすことは確実だ。
農林中金の利払い圧縮で農協経営は窮地に陥る
さて、本題に入る。日経記事のポイント部分、農林中金がJAへ支払う利息を「現状の0.6%程度から0.1~0.2%圧縮」を実現した場合の農協経営へ与える影響のシミュレーションから切り出してみたい。材料にしたのは週刊ダイヤモンド誌の農協ランキングでトップになった富山県のJAみな穂(細田勝二組合長)である。
最新のディスクロージャー誌(2016年3月期)によると、9410人(正組合員5572人)の組合員から集める貯金は954億円。農協の平均像に近い貯金高だ。ちなみに総合農協統計表では15年度1029億円。表1は、JAみな穂の資金運用状況である。
「系統預け金」と呼ぶ農林中金への預金は平均残高ベースで810億円だった。資金運用額(911億円)の実に9割近くがその系統預け金での運用になる。日経新聞が「奨励金」と書いた利息は5億4000万円。運用利回りは0.67%になる。記事にある「現状の0.6%程度」という数字と符合する。
農林中金による利払い圧縮が実現した場合、0.1%圧縮のケースで8103万円、0.2%圧縮なら1億6200万円が減ることになる。ちなみに信用事業の利益は6億1322万円だった。
これがどれだけ大変か。JAみな穂の人件費でみてみよう。この農協の従業員数は245人。それに要する人件費は、同ディスクロージャー誌では、約11億7700万円だった。
1人当たり約480万円になる。0.1%圧縮した場合で16人分、0.2%圧縮なら33人分の金額だ。
農協経営の現状からすると、これだけの利益を他の事業で稼ぎ出すことは至難の業。そんなことをしたら組合員農家のさらなる農協離れを助長する。減益分や損失分などを農家に押しつける農協の得意芸、マークアップ的なやり方で手数料や経費の増額で帳尻を合わせようとしても、これまた至難の業。職員の給与に手をつけようとしたら全職員一律に7%から14%の人件費カットを断行しなければならない。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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