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【知っておきたい 世界各国の産業用ヘンプ】
米国(2) 産業用の幅を広げるCBD ビジネス
- NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク 理事 赤星栄志
- 第7回 2018年06月28日
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その後大きく動いたのは、80年代のエイズ蔓延による。当時の米国では「バイヤーズ・クラブ」という組織がエイズ患者の症状を緩和する目的で、米食品医薬品局(FDA)が承認していない薬を提供していた。サンフランシスコにいたデニス・ベロン氏は、「カンナビス・バイヤーズ・クラブ」を立ち上げ、エイズの重症患者に限定して大麻の密売を行なった。連邦法や州法をまったく無視した違法行為だが、患者らに喜ばれ、91年には医療用大麻使用を認める条例を可決させる社会運動に発展する。結果的に75万人もの署名が集まり、カリフォルニア州の住民投票で56%という過半数の賛成を獲得。医療用大麻の使用を認める法令が96年11月に世界で初めて施行され、その後の全米各州での合法化の流れをつくった(図2)。
てんかん症状の少女の治療効果をきっかけに
この時点で利用されていたのは、医療用・嗜好用に用いられる薬用型の品種(THC含量5~25%)である。ところが、CNNが医療番組「WEED(ウィード)」(2013年8月に全米で放映)で取り上げたのは、繊維型の品種(THC濃度0・3未満)の医療分野での利用事例だった。トラベ症候群と呼ばれる重いてんかんを患い、週300回もの発作に悩まされていたコロラド州在住の5歳の少女シャーロットが、CBDを摂取した結果、発作の回数が週1回にまで激減したというのだ。涙なしには見られない奇跡の物語として好評を博したため、何度か再放送され、2本の続編が放映された。番組の案内役を務めた医師のサンジェイ・グプタ博士は、医療用大麻に対して反対の姿勢だったことを番組内で謝罪し、「大麻は、医学的用途が認められていない最も危険な薬物に分類されていますが、実際の危険性はアルコールほどではなく、医学的用途が多くあります」と述べている。
少女の治療に協力したのは、同じコロラド州で農場を営む7人のスタンレー兄弟である。11年に育成したTHC濃度0・3%未満でCBD濃度17%の品種から製造した。この品種は当初、喫煙してもハイにならないことから「ヒッピーの失望」と名付けられていたが、後にシャーロットの治療成果を受けて「シャーロットの贈り物(略称CW)」と名づけられた。
スタンレー兄弟は番組が放映後に同じような症状の患者を救うために生産を拡大し、販売体制を整えている。CWのCBDオイルはオリーブ油で調製され、30の小瓶に詰めて販売されている。CBD濃度によるが、販売価格は一瓶あたり4300~1万6300円程度である(図3)。ほかにもカプセルやスキンケア用のクリーム、ペットの犬用オイルなどに商品を展開し、いまでは従業員51名で売上高11億円の大農場に成長している。
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赤星栄志 アカホシヨシユキ
NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク
理事
1974(昭和49)年、滋賀県生まれ。日本大学農獣医学部卒。同大学院より博士(環境科学)取得。学生時代から環境・農業・NGOをキーワードに活動を始め、農業法人スタッフ、システムエンジニアを経て様々なバイオマス(生物資源)の研究開発事業に従事。現在、NPO法人ヘンプ製品普及協会理事、日本大学大学院総合科学研究所研究員など。主な著書に、『ヘンプ読本』(2006年 築地書館)、『大麻草解体新書』(2011年 明窓出版)など。 【WEBサイト:麻類作物研究センター】http://www.hemp-revo.net
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