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メイホウの母親に当たるチヂワは、暖地二期作品種ではでん粉価が高く食味は良好で、青枯病に強い特徴を備えていた。収穫時にストロンの先が腐る症状などを抱えていたことから普及せずに消えていった品種だが、俵は通常より早めに掘り取ることで免れる術を会得していた。後継品種のメイホウもこの尻腐れ
問題を払拭できずにいたため、交配では無理なのだろうと解釈したのも突然変異育種法を選んだポイントだった。
そういった経緯を踏まえた1980年代半ば、尻腐れ症状のないメイホウを発見し、優性遺伝で異常がなかったものの栽培を繰り返した。その際、2ha、じつに12万株から収穫された塊茎をチェックしていると、表皮に紫色の線が入った個体をたった一つ発見する。それを次の秋作で種イモとして植え付けると皮色が白いものに戻り、翌春にはまた紫色の帯が現れるという具合に変化した。以後、皮色に着目しながら青枯病やそうか病の汚染圃場で選抜を繰り返し、15作の歳月をかけて固定させたのが皮色がほぼ全体に赤紫の「タワラムラサキ」だった。1993年に出願し、1997年に品種登録に至っている。
俵の育種熱は冷めず、品種登録は10にも上った。減農薬栽培が可能なことに加え、少肥栽培下でも多収なことが共通した特色になっている。
【俵の育成(出願)品種一覧】
(1)タワラムラサキ(1993年に出願、1997年に品種登録)
(2)タワラヨーデル(1996年に出願、2000年に品種登録)
(3)タワラマガタマ(同)
(4)グラウンド ペチカ(同)
(5)サユミムラサキ(同)
(6)タワラアルタイル彦星(長女の俵直子名義で2005年に出願、2008年に品種登録)
(7)タワラ小判(同)
(8)タワラ長右衛門宇内(同)
(9)タワラポラリス北極星(同)
(10)タワラマゼラン(同)
(11)タワラビーナス(2012年に出願、品種登録に至らず)
(12)タワラ ワイス(同)
(13)徳重ヨーデルワイス(同)
(14)クワタルパン(同)
(15)朱美呼ヴェガ織姫(2013年に出願、品種登録に至らず)
「突然変異はな、一遍には出てこんのよ。葉っぱに出てきたり、花に出てきたり、もちろんイモに出てきたり。最初はイモに出てきたのが一番わかりやすかった。1本の茎で葉っぱが3種類出てきたのもあったな。よよいとびっくりした。
最初はみんな同じなんよ。ほんとちょっと違うくらい。自分にはその違いがわかっても、ほかの人には誰もわからない。出てきても見つけられる人がいない。でも、俺にはわかる。ジャガは自分の子どもじゃけん。それくらいジャガに目が向いている。そんなのを繰り返していると、葉っぱも花も違う完璧な個性が出てくるんよ。そうしてできたジャガを『環境適応型』と呼んでいる。
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俵正彦 タワラマサヒコ
俵農場
1954年、長崎県西郷村(現・雲仙市)生まれ。長崎県立島原農業高等学校卒業。1974年、?農業研修生派米協会(現・(公社)国際農業者交流協会)の研修生(9期)として渡米。1980年代半ばから農業経営の傍ら、突然変異による馬鈴薯の育種を志し、「タワラムラサキ」など計10点の品種登録を実現(注:長女名義の5品種を含む)。その功績が評価され、2010年、農林水産省の普及事業の一環で行なわれた「農業技術の匠」に選定される。2018年6月28日、63歳で死去した。座右の銘は「天知る、地知る、我知る、人知る」
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