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一発肥料は急速に普及した。稲作農家の高齢化が急速に進行したからだ。高齢農家にとって難事は、真夏に穂肥を施すことだ。一発肥料はそれを解決してくれる。最近では大規模農家も使うようになってきた。穂肥を施す作業を省くためだ。
富山県の普及率が群を抜いているそうだ。08年時点での数字しかないが、6割近く普及していたという。県と農協組織が普及を促した。12年3月の水稲の作柄に関する委員会で統計部が紹介したものだ。
残念ながら全国レベルでの普及率を示した資料はない。生産局生産資材対策室の話では、水稲の場合は5割ぐらいの普及率のようだ。
一発肥料の問題点が指摘され始めたのは10年ぐらい前から。出穂期前に穂肥が溶け出してしまうことが問題になった。肥料切れのことである。その現象は何日も高温が続いたときに起こる。フェーン現象による高温が続くことがある富山県では、JAみな穂農協が組合員に配布する「農協だより」13年3月号で、「全量基肥一発肥料の依存度が高いため、稲の生育に合わせた追肥がおろそかになっています」と呼びかけていた。
笑ってしまうのは、一発肥料を使わせながら、追肥の必要があることを農家に促していることだ。一発肥料の販売に際して、基肥も穂肥も一発で施せると説明しておきながら、出穂期になって追肥を施せというのは、結果として農家に欠陥商品を売りつけていたことになる。
作況指数がコメを安く買い集めるツールに
米穀データバンクの作況指数の話題に戻そう。作況指数の算出方法は「各都道府県別の7月末までの気象データを『作況推計プログラム』に投入して作況を予想した。(8月~収穫期まで天候が平年並みに推移した場合の予測値……)」と説明されている。
水稲は、高温で日照量が多い年は豊作となり、低温で日照不足の年は不作になる。水稲の生育パターンに沿ったプログラムにして、田植え後の積算温度や日照量など気象データを入力、生育状況や作況指数を推測する仕組みのようである。その技術的な問題点を10年10月号で次のように指摘しておいた。
「例えば、今年の例でも、田植期前後には天候が不順だったが、6月に入ってから急激に回復してきた。梅雨明け前から気温は急上昇、7月末から8月上旬にかけて猛暑だった。積算温度だけの判断では、豊作という予想が立ってしまうのだろう」
米穀データバンクに、作況推計プログラムの中身について説明を求めたが、断られてしまった。先の説明に尽きるということらしい。プログラムには、先に指摘した施肥などの栽培技術のことは反映されていないということになる。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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