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新・農業経営者ルポ

農家民宿を文化と交流の発信源に

愛媛県は内子町に、朗読会や演奏会、コンサートから地元の人の誕生会に至るまでさまざまな用途に使われる農家民宿がある。森長照博(75)・禮子(70)夫妻の経営する「ファーム・イン RAUM 古久里来(ラオム こくりこ)」だ。年間の利用者約1500人のうち、1200人が宿泊ではなく、交流の場として利用する。木々の緑に囲まれた宿は、宿泊客のみならず、地元の人も気軽に上がれる造りで、四半世紀の間に地域のコミュニティホールとしてすっかり定着した。 文/窪田新之助・山口亮子、写真/山口亮子
内子町の市街地から車で小田川沿いを上流へとさかのぼると、両脇から山が迫り、川と山に挟まれた狭い平坦地に田んぼや畑、民家が続く。街中から5分ほどの近さに広がる牧歌的な空間に、森長夫妻の経営する古久里来はある。
取材で訪れたとき、照博は母屋のダイニングでマイクなどの音響機器を片付けている最中だった。
「毎年、プロの方やそのお弟子さんたちにしていただいている朗読会で宿泊されていたお客様方が今日のお昼に帰られたばかりです。一昨日の朗読会には地元や東京から40人がお集まりくださいました」(照博)
森長夫妻の住居と食堂が一緒になった母屋は四周が緑の木々に囲まれており、まるで森の中にあるような印象を受ける。庭を挟んで向かい側には、2階建ての円筒形で大木の幹を思わせる外観をした宿泊棟がある。ダイニングには、広葉樹の木々の茂る庭を眺める大きな窓が切り取られている。周囲の景色も楽しめる朗読会はさぞ雰囲気があっただろう。

農家民宿が文化の発信地

出演するのは、プロのナレーターを筆頭にいずれも演劇学校などで朗読を学んだことのある経験者ばかりだ。前後の4日間は4部屋計8人が泊まれる宿泊棟は満室で、遠方からの参加者のために近隣の宿を紹介したという。内子町は歌舞伎座が残るなど文化の香りの強い町ではあるが、全国から朗読をするため、あるいは聞くために訪問する人がいることに驚かされる。
これはプロのナレーターの女性が古久里来を訪れ、「ここで朗読したいわ」と言ったのがきっかけで始まったものだ。以来、毎年開いている。「もう12年続いているんですよ、ありがたいことに」と照博が言うと、「出演料はないんです」と禮子が手弁当だと説明する。

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