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通常、出荷契約にはペナルティの条件がついている。契約通り出荷しなかった場合に農協がペナルティを徴収するためだ。商人系業者との差が2000円も開けば、ペナルティをちらつかせる事態も起きるだろう。18年産はその効果があったとしても、商人系業者との価格差がこれだけ出れば、19年産は最初から契約しない農家が18年産より多く出てくることは十分にあり得る。
表1は17年産あきたこまちのJA秋田おばこと商人系業者の農家からの仕入れ価格と、卸業者などへの販売価格を比較したものだ。コメ集荷は特殊な商慣行がある。農協や商人系業者が、農家から集荷する段階では内税表示、それを卸業者などへ売る場合は外税表示にする。表では比較しやすいように集荷価格も外税表示の価格を付記しておいた。
経費・手数料は、いずれも営業経費のようなものだと思っていただきたい。出荷する農家からすれば、JA秋田おばこに出荷したら、商人よりも1俵につき約1200円多くとられ、その分、農家の利益は減るという意味になる。
JA秋田おばこの管内は、県内の集荷の激戦地区だ。毎年、収穫シーズンになると、激しい集荷競争が起きて、コメの奪い合いとなる。全集連系の地元の商人系集荷業者は16社。全集連に加盟していない地元集荷業者も数社ある。数万俵クラスで集荷するのは3社か4社。残りは数千俵から1万俵台の零細規模だ。
商人系業者が集める数量についての数字はない。ざっくりとしたところでは、管内で生産されるコメの15%程度を集荷しているようだ。農協の集荷量を参考にすると、20万俵程度になろうか。これは加工用米も含めた数字なので主食用米だけなら15万俵程度だろう。
その15万俵は、おばこの管内の商人系業者だけでは集めきることはできない。コメ商いには、資金、倉庫、情報、売り先の4点セットが必要。これを兼ね備えた業者は4社ぐらいしかないからだ。いま、おばこの管内には、秋田県内にとどまらず東北各地の集荷業者が殺到している。おかげで管内の空き倉庫は借り手がついた。いずれも県内外から新規参入してくる業者が借りたという。
JA秋田おばこが、18年産米で農家と交わした出荷契約は116万俵だった。商人系業者が攻勢をかければ2年後ぐらいで100万俵を割り込み、数年もたてば80万俵台に落ち込んでしまうだろう。すべての損失を農家に押しつけたことが、未曾有の農協離れという形でのしっぺ返しを受けることになりそうだ。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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