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特集

農業保険の最新動向~収入保険と民間の損害保険サービス~

「備えあれば憂いなし」というものの、農業界で保険の必要性を強く認識し、相応の備えをしている経営者は決して多くない。局所的な豪雨に降雪、台風に伴う強風、地震など、日本列島を襲う自然災害は農業現場にも多くの被害を及ぼしているにも関わらずだ。当然ながら、長期的な投資に力を入れて規模を拡大している経営ほど、万が一被災すると最小限の補償では資金繰りの悪化を招くリスクが高くなる。国や都道府県、市町村が手を差し伸べてくれるのはほんの一部と心得て、経営状況に見合った頼みの綱を経営者が自ら選択するしかない。折しも、現行の公的保険が見直され、平成31年1月から「収入保険」がスタートする。農業生産、農産物販売の自由度が高まり、損失の要因が多様化するなか、保険の知識を深める機会を設けてはいかがだろうか。平時にこそ備えを見直しておきたいものである。 (取材・構成/永井佳史・八木誠一・加藤祐子)

Chapter 1 現行の保険制度と近年の自然災害

多様化する農業経営のセーフティーネットは十分に機能していない?!

【食管制度が前提の農業共済制度】

あまたある産業のなかでも農業は、天候や自然災害によるダメージを受けやすいことから、1947年より国策に基づく公的保険が制度化されてきた。どの程度備えておくかは経営者の判断によるところで、公的保険に加えて、民間の損害保険会社や生命保険会社が取り扱う民営保険を活用しているケースもある。
はじめに現行制度を確認しておきたい。我が国で公的保険の役割を長年担ってきたのが農業共済制度だ。農業共済制度は「農業災害補償法(昭和22年法律第185号)」によって規定され、掛け金の約半分を国庫負担する形で農業経営を下支えしてきた。2017年産(一部に年度の数値を含む)の事業別の引受実績を表1に示す。なお、建物共済と農機具共済の2つの事業には、掛け金に国庫負担がないため、加入状況が公表されていない。
ここで農作物共済の水稲・麦の引受率(加入率)が高いのは、当然加入制を敷き、一定の面積規模以上の耕作を行なう農業者に加入を義務付けてきたためである。創設時に前提となっていた食糧管理制度が廃止され、国による生産調整がなくなり、この当然加入制は今回の制度改正で任意加入制となる。また、実施主体の農業共済組合等の数は70年には3202あったが、2018年時点で123団体に集約され、事業のあり方は大きく変化している。
共済支払額は、93年の冷害が発生した年に最高額となり、04年の冷害時にも多く発動した。しかし、近年に農業被害をもたらしているのは、冷害や台風に限らない。旧態依然とした制度の見直しを後押しするのは、自然災害による農業被害の多様化である。06年から15年までの10年間に農業被害をもたらした災害の被害額と共済支払額を図1に、災害ごとの被害状況を図2にそれぞれ示した。豪雨や火山噴火、地震などによって作付け不能になった場合や収穫物が倉庫で浸水した場合などは、従来の共済制度では想定されておらず、被害額と共済支払額が呼応していないときもある。

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