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不作を証明したメーカーの肥効試験
最後に“一発肥料”と呼ぶ緩効性肥料の肥効試験のデータをご覧いただきたい(図2)。ちょっと見づらいが、積算温度と穂肥溶出の関係を、今年と平年との比較で示している。統計部の作況指数が実態を反映したものでないことを裏付ける資料だ。
試験を実施したのは一発肥料のパイオニア的な大手化学メーカー。試験地は、皮肉なことに作況指数103と出た宮城県北部地区。宮城県の生産者が入手して送ってきてくれたものである。さすが大手化学メーカーだけはある。製品の品質面のフォローアップをしっかりとやっている点は好感できる。
一発肥料は基肥と穂肥がセットになったものである。春の田植え前に施しておけば夏に穂肥を施す手間が省けることから高齢農家や大規模農家の間で急速に普及した。
ただマイナスの面もある。積算温度が上昇していくと穂肥部分が溶出していく仕掛けだ。想定以上に積算温度が上昇すると溶出のスピードが速まり、穂肥が効くべきタイミングで肥料不足を起こしてしまう欠点を併せ持つのだ。
公式な統計はないが、肥料業界の推計では一発肥料の普及率は6割近くになるらしい。宮城県でもそのぐらいの普及率だろう。
宮城県の稲の出穂期は7月31日だった。これから登熟という時期に向かうのに、グラフを見ると、稲が高温で体力を消耗しているのに、穂肥が足らず、登熟不良に陥っていることが容易に想像できる。追肥を施せば、登熟不良はある程度防げるが、高齢農家や大規模農家にはその体力も気力もなくなっているのだ。
この夏は宮城県北部でも平均気温は例年より3度近くも高かった。これで作況指数が103になるということは絶対にあり得ず、96~97程度と判断したのは、以上の理由からだ。
基準筆調査は、施肥状況についても詳しく聞き取りしている。施肥の期日はもとより、追肥の状況や10a当たりの窒素投入量まで調べている。そこまで調べていたら絶対に103という数字は出てこないはずだ。
統計部の猛反省を促したい。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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