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これは虚偽の内容だ。「説明変数」として2項目目に示した「沈下もみ数歩合」のことである。これは稔実調査だ。調査方法は、政府統計の「e-Stat」にきちんとした定義がある。
「比重選の方法は、バケツ等の容器に水を入れ、これに抽出した試料を入れ、よく攪拌する。その後、2分間位置き、もみの沈下及び浮上の状況を確認し、浮上もみをすくい上げる。次に沈下もみをすくい上げる。すくい上げたそれぞれのもみを新聞紙等に分けて広げ水を切る」
あらためて調査票に目を通してみた。まず「千もみ当たり収量」という表現の記述は、調査票のどこにも見当たらない。「3刈り取り調査」に「千粒重測定」という記述はある。ただしこれはもみではなく玄米のことである。次いで「沈下もみ数歩合」に該当する調査項目は、4ページ目の「5稔実歩合調査(作況基準筆調査のみ)」のことと思われるが、これも括弧書きが示すように、「作況基準筆調査のみ」だ。
その旨、窪田課長に指摘すると、珍妙なことを言い出してきた。「稔実歩合」調査は、「登熟歩合」の中に含まれていると言い換えてきたのだ。それは収穫後の調査だ。それで「稔実歩合」をどうやって調べるのか。開いた口が塞がらなかった。
デタラメな説明はまだある。その文書をFAXで送ってくる前のことだった。相手に調査票を手もとに置くよう指示してやりとりをした。標本筆には、「稔実歩合の調査が対象になっていない」と指摘すると、それは3ページ目の「4草丈・茎数・穂数・もみ数調査」でカバーしていると言い出してきた。
思わず、「馬鹿者」と叱りつけてやろうかと思ったが、「それらは、いずれも外観形状についての数の調査だろう。稔実しているか不稔かを調べるには、もみを半分に割る作業が必要になることはお分かりかな。外観形状だけでは、絶対に『稔実歩合』は出てこないぞ」と教えてやった。
それに対する窪田課長の答弁は珍妙すぎた。
「もみを半分に割るような作業は耕作者の理解が得られないからできません」
こればかりは「馬鹿者」と叱りつけてやった。先の外観形状検査を実施する際、実測のため耕作者の許可を得て稲株を刈り取っている。その許可があれば、もみを半分に割る許可が必要になることはない。窪田課長が調査の実務も現場のことにも精通していないことがこれで立派に裏付けられた。
「統計は自分たちのもの」という勘違いと奢り
取材を終えてから、あらためて文書を読み返してみた。すぐ嘘と分かるような文書を送ってきた生産流通消費統計課の動機を考えてみたかったからだ。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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