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歩留まりが論点だったので、窪田課長は、「沈下もみ数歩合」という文言さえ使えば、相手は納得するだろうと当方を甘く見たのではなかろうか。その文書を起案したのが、窪田課長か、その部下か、これは統計部の調査を待つしかないが、思い浮かんだことは、課長も部下も、統計は自分たちのもの、省内でも自分たちしか分からないはず、他人が横から口出しをしてくるな、そんな勘違いの奢りがあったということだ。
いまこそ統計改革を!人海戦術からIT駆使へ
統計部がずっと悩まされてきたのは、職員のリストラ。それに伴う労使軋轢だった。そのリストラは、ある意味ですさまじかった。
統計業務の手足となる地方組織の定員は、戦後間もない1948年のピーク時には1万9,626人もいたが、相次ぐ行政改革や2004年の「農林水産統計の抜本的見直し」で、統計の定員は激減した。ただ、作況調査に携わる職員数にはさほど大きな変化はなかった。
このリストラによって統計の正確さが失われたという見方が一般的だが、筆者はそうは思わない。正確さを失った最大の原因は、リストラを進めながら、統計調査の手法を抜本的に改めなかったことにあるからだ。企業の合理化は日常茶飯事である。リストラで人を減らしたら、企業は機械化などで業務の質が落ちないようにするものだ。
統計のリストラを進めながら、農水省は、機械化やIT導入の取り組みが万全だったとは思えない。いまも統計手法は旧態依然たるものがある。人海戦術の調査手法を墨守していることだ。極端にいえば、定員2万人態勢時代の調査手法をそのままスケールダウンしたのではないかという印象さえ受けてしまう。これでは正確さは期待できない。
統計調査の特質は、単純作業と季節性にある。機械に置き換えやすいものだ。例えば、問題とした「稔実調査」も、もみを投入すれば自動的に判別する機械装置は、町工場の技術力でも十分に作れる。開発経費も職員100人程度のリストラで浮く1年間の人件費で間に合いそうだ。
その機械化と並行して進めるべき大事なことがある。少数精鋭の調査担当者を育成することだ。地方公務員や農協職員のOBを安易にリクルートするのではダメだ。
観察力に優れた者を選抜することがキーポイント。少数精鋭の調査担当者なら、稲の作況調査で主産地でも1県数名程度で正確な調査ができる。そして本省の管理部門が最優先にすべきは、気象変動、栽培の技術革新などに即応できる調査設計だ。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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