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光センサーを備えたこの選果場では、すべてのコンテナはひもづけされ、誰が、いつ、どの園地から出荷してきたかの履歴が残る。もちろん結果である糖度や酸度などの品質評価についてもだ。一連の結果を受け、JAの職員は営農指導をする。つまり、PDCAが回るような仕組みになっている。
高校の跡地を買い取り、選果場はそこに新築する予定だ。処理能力は現存のものと同じで、JA管内のミカンの生産量を落とすつもりはない。あくまでミカンにこだわり、ミカンで儲けていくのだ。
翻って全国のJAを見渡すと、広域合併によって独自色をなくしているように感じる。合理化という旗印からすれば、短期的には一見良さそうに見えるが、長期的にそれはJAにとっても組合員にとっても明るい未来なのだろうか。そうは思えない。最後に後藤へそんな疑問をぶつけてみた。
「その通りだと思う。農協にとっていま一番不幸なのは、自分たちが何者なのか、何をやっているのかわからなくなっていること。金融屋なのか保険屋なのか、はたまたそれでいいのか。組合員との関係も希薄になっていて、自分たちはいったい何者なのか、何のために仕事をしているのか感じられなくなっているのでは」
存在意義の希薄さ――。それは多くの農協を覆う暗い影だろう。
関連してこんな話がある。JAみっかびはミカンの運輸事業を置いている。ただ、夏に向かうにしたがって、低温貯蔵するミカンも在庫が払底するため、そこの職員の仕事は自然少なくなる。そこで後藤はあるとき、彼らに組合員の園地の草刈りをしてもらうことにした。あまりに暑い日が続くのでてっきり嫌になっているかと思ったが、逆だった。草刈りをしていると農家から礼を言われる。それがうれしいし、やりがいを感じるというのだ。
「農協の仕事の強みって、農業に関係していることと、密接な関係にある組合員がいること。これに尽きるんじゃないかな。強みを活かすのが経営なら、農業の発展や組合員の暮らしや経営にどう寄与するのか。それがこれからの農協に問われているのでは」
JAの現職の組合長ながら、組織に対する率直かつ辛辣な発言ばかりだ。正直、ここまで書いてしまっていいのかと悩んだところもある。以上の原稿でコメントについては、本誌に掲載する前、後藤に確認してもらった。表現を和らげるような要望は一切なかったことだけ付け加え、この稿を脱したい。 (文中敬称略)
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後藤善一 ゴトウヨシカズ
三ヶ日町農業協同組合
代表理事組合長
1955年、静岡県浜松市生まれ。日本大学経済学部卒業後、就農。「楽しく、儲かる農業を」を目指して、三ヶ日町でミカン園経営。就農時より作業の機械化・園地拡大に取り組む。平成11年第一回全国果樹・技術経営コンクールで農林水産大臣賞受賞。現在の柑橘園地は10ha。農業経営はすべて息子に任せる。農協役員就任後から三ヶ日みかんのマーケティング・ブランド強化のための多様な取り組みを続ける。
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