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イタリアと言えばEUの中では先進7カ国(G7)の一角を占める大国であるにもかかわらず、幾度となく経済・政治危機に陥っている。そんな背景は今回のイタリア行きでも感じることができた。僕はEIMAが開催されるボローニャのホテル代が高いのを嫌って100km以上離れたベローナの民泊に泊まり、ボローニャに通った。ある日、切符を買おうと思ったら発車時間が迫っているのに駅員が切符を売ってくれない。地元の人々は平然としているが、外国人たちは焦っている。やがて、駅員が「切符はいいから乗れ」と言う。後でイタリア在住の人に聞いたら金曜日はよくこんなヤマネコストライキがあるのだそうだ。同行したK君親子とともに約10ユーロ得したような気分だった。ボローニャ駅から会場に行くバスでも同じような経験を
したが、そんな体験からイタリアの経済危機の理由もわかるような気がした。
でも、農業は元気なのである。以前にもイタリアのマカロニと小麦生産の現状に関して書いたことがある。大量に小麦を輸入しているが、イタリアの小麦生産は日本で言うような外圧による農業破綻のようなことはない。加工品としてのマカロニその他の麦加工品の輸出が盛んで、農業に大きな影響をもたらしていない。
亡くなった松尾雅彦氏も、スマート・テロワールを語るとき、イタリアに学ぼうと言っていた。それは、イタリアの村々がEUの共通政策や国に依存するより、自らの地域に根差したたくましい農村を作ってきたからだと話していた。農業の元気もそんなところから来ているのかもしれない。
日本の農業を振り返ると、今の日本は「農業ブーム」らしい。農業にAIやICTといった技術が導入されていくことの意義に異論はないが、農業にとって一番肝心な「土」への反省が見過ごされたままITを煽るメディアや農水官僚たちに鼻白むのは僕だけではないだろう。さらに、補助金バラマキの「六次産業化」や水田政策もそうである。
日本人の観光客には一番人気のイタリアだそうだが、その農業・農村のたくましさこそ、それを合わせ鏡にして我が身を見ることが日本の農業に必要だと思った。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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