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農業は先進国型産業になった!

日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第1回 日本固有種「甲州」を先頭にワイン輸出産業化めざす 中央葡萄酒株式会社(山梨県甲州市)


中央葡萄酒は上級ワインを目指し、“栽培面”から挑戦している。

【糖度「20度の壁」を超える】
甲州は糖度が上がりにくい性質があり、「20度の壁」といわれるが、それを超えた。勝沼地区の甲州の糖度は通常16度であるから、驚くべき高さだ。糖度が高いので、旨い白ワインが生産できる。この三澤農場単一畑のブドウで造ったものが「キュヴェ三澤 明野甲州」である。同社の最高級ブランドである。「デキャンタ・ワールド・ワイン・アワード」で金賞を受賞したワインは、この高い糖度のブドウから醸造したワインである。
栽培の技術革新「垣根栽培」は、三澤社長が挑戦と失敗を繰り返したが、再挑戦を提案し成功に導いたのは、現在同社の栽培醸造責任者に就いている三澤社長の長女・彩奈である。彩奈氏は仏ボルドー大ワイン醸造学部やブルゴーニュの専門学校で学び、「良質なワインは、良質なブドウから」という本場の醸造家たちの声に影響を受けた。「垣根栽培でなければ」という考えもそこから来ている。
日本のブドウ栽培は、1本の木から沢山の果実を収穫する「棚仕立栽培」が主流である。しかし、棚仕立てだと、一枚一枚の葉や房に十分な陽光が当たらず、糖度の高い良質なワイン用のブドウが採れない(欧州のワイナリーは垣根仕立て)。問題は垣根栽培にすると房が制限され、収穫量が減ることだが、中央葡萄酒は品質向上を選択した。(革新には苦労と失敗のドラマがつきものであるが、ここでは省略する)。

【産地発展のため技術開放】
ワインの品質はブドウで決まるといっても、やはり醸造技術の役割も大きい。甲州種ワインの品質を高めたのはシュール・リー製法である。従来のワイン醸造では、発酵が終わった後、発生した澱(おり)を速やかに取り除くのが常識であったが、シュール・リーではそのまま発酵容器の底部に残し、旨味成分を引き出す製法である。フランスの技術であるが、甲州種ワインへの応用を大手ワイナリー、シャトー・メルシャンが開発した。これで“淡麗で薫り高い辛口”のワインができるようになった。醸造法の画期的な革新である。
当時のメルシャン製造責任者が技術を公開した。「技術を共有して、ワイナリーが切磋琢磨しないと、勝沼は銘醸地にならない」という哲学だ。産地形成への強い思いからの決断である。1990年、公開技術説明会には勝沼地区のワイナリーがこぞって参加した。甲州種ワインのほとんどがシュール・リー製法に転換した。「辛口の甲州」だ。日本のワインの評価が上がっていくための転換点になった。三澤社長も、今日の市場拡大につながったと、メルシャンの決断を高く評価している。

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