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特集

世界農業入門Part1


我々は現在、食料不足どころか、大余剰時代の真っただ中にいる。その要因は人口増加率を上回る単位面積当たりの収量の向上だ。図4(16頁)のとおり、人口指数237(1961年=100)に対し、穀物の単収指数が275、生産指数は380である。簡単にいえば、2倍に増えた人口に対し、単収は約3倍、生産量は4倍ほどまで増えたのだ。
その結果、穀物が大半を占めていた農地は余りに余った(次頁の図3)。野菜や果物、豆類、濃厚飼料などが増産できるようになり、世界中で農家は豊かになった。そして、消費者は多様な食生活を送れるようになったのである。
しかし、である。日本の穀物農業(コメ・麦・大豆・トウモロコシ)はどうか。世界レベルであまりぱっとした話を聞かない。それもそのはずだ。図5をみてもらいたい。穀物全体の単収の伸びは1961年比で1.5倍(単収指数146)に留まっている。アフリカを含む世界平均275の約半分だ。穀物生産指数は57と半減しており、これは190カ国中180位というさんたんたる数値である。ソ連崩壊後のロシアが113、北朝鮮でさえ139と日本の2~3倍のレベルなのだ。
参考までに日本以下の国や地域を列挙しておこう(都市化で農地がゼロになった香港が最下位で、日本の下にくる181位が聞いたこともない大西洋の島国カーボベルデ。それ以下はトリニダード・トバゴ、ブルネイ、ジャマイカ、フィジー、レソト、バルバドス、プエルトリコの順である。石油で潤い離農が進んだブルネイを除き、あとは超小国の島ばかりだ)。
それもそのはずだ。日本は過去50年、人類1万年の農耕史上、もっとも過激な農政の実験場であった。農業経営者を弱体化、実質追放する農地解放にはじまり、熾烈な食料管理法とセットで過酷な4割減反、農家を食い物にする農政族の跋扈、生産性の低い官製の奨励品種制度……苦難の連続である。この時代をサバイブした読者諸氏は本当に偉大だ。
その間、世界の主要4穀物トウモロコシ・麦・コメ・大豆の収量において、日本はすべて中国に抜き去られている(図7・9・11・13参照)。
それ以上の問題がある。日本の収量は横這いが続くなか、中国は穀物先進国の米英と同様、どの品目も増収ラインに乗っているのだ。
増収ラインとは右肩上がりの収量の上昇率のことだ。17頁左側に示した穀物収量の長期推移からみてとれる(米国のトウモロコシ:図6、大豆:図12、英国の小麦:図8)。日中を含む右側の推移と比較すれば、日本だけが増収ラインから取り残されているのが一目瞭然だ。

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