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僕も忘れていたが、48年10月号の表紙はワンウェイ5連の白いプラウの作業写真。特集タイトルは「地力の回復・維持・増強を」という74頁の大特集だった。すでに化学肥料万能の時代だった当時、9人の執筆者たちが、作目別に“地力”の意義を語り、家畜糞尿、生わら、さらに下水汚泥や都市ゴミなどを含む産業有機廃棄物の利用、そして機械化と地力維持、輪作の意義などを分担して解説していた。同時に、土壌改良剤や地力対策関連の機械類が一覧にされている。
僕もその特集に合わせた「捨てる神ありゃ拾う神あり」というタイトルのグラビア記事を書いていた。取材していたのは神奈川県秦野市の酪農家と三浦市の野菜農家との間で行なわれていた牛糞堆肥の流通、神奈川県小田原市で行なわれていたじん芥堆肥生産(ダノ式高速堆肥化処理場)、平塚市のし尿処理場で行なわれていた人糞堆肥(汚泥肥料)の生産と利用だった。
このうち小田原市の都市ゴミ堆肥生産は、当時でもコスト負担が大きいだけでなく臭いの問題もあり、暗い展望を示す記事になっていた。
一方、平塚市で行なわれていた汚泥肥料は利用農家の評価も高かった。その施設は昭和35年(1960年)から稼働しており、汚泥堆肥は無償で提供されていた。最初こそ農家にも抵抗があったというが、取材した当時は引く手あまたでなかなか貰える順番が回ってこないと書いてある。当時は下水道が普及しておらず、いわゆるバキュームカーが家庭からし尿を集めて回る時代だった。その後がどうなっているかをインターネットで調べてみると、平塚市では下水道が整備された現在でも現代的な処理施設によって処理された汚泥肥料が農家や一般家庭で使われているようだ。
下水道処理設備は農村部ほど遅れて整備されてきた。また、小さな自治体による処理が行なわれていることで臭いの対策を含めた肥料化のための高度な処理をする投資ができないケースが多いのだそうだ。有用な肥料原料ではあるものの、残念ながら一部の業者により肥料取締法に基づく汚泥肥料の検査を受けないものも存在する。この有用な国内資源の活用を広めるためにも汚泥肥料に関する情報をより広い方々に共有していただきたいと思う。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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