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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第2回 甲州ワインの価値を高めワイン産地勝沼を守る 勝沼醸造株式会社(山梨県甲州市)
- 評論家 叶芳和
- 第22回 2019年02月28日
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ワイナリーの産業組織は、世界の産地を見ても、小規模が多数存在する構造になっている。仏ブルゴーニュのドメーヌ(ワイン生産者)の保有農地は平均4ha程度である(注、ボルドーのシャトーは規模が大きく、ブドウ畑10haといえば小さな畑になる)。勝沼の中堅クラス、10万本はブドウ畑換算で約5haであり(自社畑+契約畑)、ブルゴーニュと比べても遜色ない。
勝沼醸造(株)(有賀雄二社長)は地元資本ワイナリーで、生産規模45万本(750ミリリットル)と大きく、勝沼地区のトップリーダーである(有賀は長野・山梨ではアルガと読む)。1937(昭和12)年創業。戦国武将武田軍団の末裔で、有賀雄二氏はワイナリー業3代目である。世界をマーケットに日本の風土を活かした高品質ワイン造りを目指している。子息3人がそれぞれ醸造、営業、栽培を担当し家業に就いている。「3本の矢」は毛利元就が残した教訓であるが、「アルガ3兄弟」の結束力が勝沼のワイン産地の持続的発展を支えていきそうだ。
2 アルガブランカの凄さ
「アルガシリーズ飲んだらぶっ飛ぶ」「これ甲州じゃない」と驚嘆されるワインがある。勝沼醸造の白ワイン「アルガブランカ イセハラ」を飲んだときの大方の感想である。伊勢原圃場の甲州種ブドウで造られたワインである。
笛吹市御坂町伊勢原(昔の小字)は笛吹川支流の金川の河川敷にあり、砂礫土壌である。水はけがよく、地力がないので、根が下に伸びていく。地力があると根は横に伸びるので、一定の層の養分しか吸収できない。下に伸びると、多くの養分が獲れ、果実は香りが強く、ミネラル分が他のワインより高いものになる。「甲州は香りがない」といわれるが、これに一石投じたのが「アルガブランカ」である。
勝沼醸造は、この伊勢原でブドウ作りの名人といわれるK氏と契約栽培している。K氏は甲州種ブドウを“棚仕立て”で1ha栽培している(約15t)。棚仕立て栽培の甲州は通常、1ha当たり100~150本であるが、イセハラは400本植栽している。密植である。ちなみに、伊勢原地区でブドウを栽培しているのはK氏だけである。
「イセハラ」ブランドの原料ブドウは500円/kgである。通常、醸造用の甲州種ブドウは200~250円であるから、2倍以上の価格である。製品価格(750ミリリットル)は5500円と高い。
「アルガブランカ イセハラ」は国際ワインコンクールで数々のメダルを受賞している。一番歴史の古いヴィーノリュブリアーナをはじめ、IWSC、IWCで連続して銀賞を受賞した。ボトルのラベル(エチケット)はスペイン人デザイナーによるもので、日本離れしている。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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