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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第2回 甲州ワインの価値を高めワイン産地勝沼を守る 勝沼醸造株式会社(山梨県甲州市)
- 評論家 叶芳和
- 第22回 2019年02月28日
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甲州ワインの価格を5500円に引き上げたことは、他のワイナリーにとっても値上げが容認されたに等しく、産地に貢献したと見られている。トップリーダーの貢献といえよう。
3 甲州に賭けた異端児 日本の風土は棚式
勝沼醸造は甲州30万本(750ミリリットル)、総計45万本の生産規模である。甲州種ブドウ300t、その他はマスカットベーリーA、メルローなど150tである。ワイン業界では02年、純日本産で行くか、外国原料依存か、大論争があったが、勝沼醸造は04年から、全量、国産ブドウ使用に切り替えたという。山梨県産ブドウの使用量は県内1位である。
自社農園(130a)の栽培品種は、8割は甲州種である。甲州種ブドウ300tの調達先は自社農園から20t程度、残り9割は購入で、農家との契約栽培200t(100人)、JA100tである。
有賀社長は、ブドウ栽培に関して独特の理論を持っている。日本固有種の甲州は垣根栽培に合わないという。
世界のワイン産地は乾燥地帯であり、垣根栽培である。しかし、日本は乾燥地帯ではないから、垣根栽培に合わない。勝沼各地で見られるように、先人の工夫が棚式栽培を採用してきた。実際、欧州系ブドウを棚式と垣根式の両方で作ってみると、棚式のほうがベターだった。日本は湿潤なので、地面に近いと、病気にかかりやすい。棚式の場合、地面から離れているからよい。イセハラも棚仕立て栽培である。
自社畑を7圃場、計130a所有しているが、主な圃場は番匠田(30a)、水分(70a)である。その8割は甲州種ブドウである。12年には、ワイナリーの裏手に広がる畑、番匠田圃場に植えていた樹齢22年のカベルネソーヴィニヨンをすべて甲州に植え替えた。いまや「甲州にこだわっている会社」である。
甲州に特化、その甲州は棚式栽培。垣根が合う欧州系も甲州に転換。勝沼醸造の自社畑からは垣根栽培が消え、棚仕立てになってきた。有賀社長の技術哲学を明瞭に反映している。
山梨県果樹試験場の研究では、棚仕立て栽培と垣根栽培に差はない。垣根式の方が病虫害に強いという研究結果もある(某ワイナリー)。また、大規模化は垣根の方がやりやすい。しかし、有賀社長は「欧州は乾燥地帯だから、垣根式だ。しかも地力もない。日本は水分が多く、地力が高いから、垣根式はダメ」という。風土論に頑なにこだわっているところが、異端児を自認する背景か。ただ、棚式で500円/kgの高品質ブドウを作っているイセハラという実績は強い。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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