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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第2回 甲州ワインの価値を高めワイン産地勝沼を守る 勝沼醸造株式会社(山梨県甲州市)
- 評論家 叶芳和
- 第22回 2019年02月28日
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4 甲州ワインの価格を高め 生食用ブドウに勝つ
有賀社長は勝沼のトップリーダーとしての立場を自覚している。トップリーダーの役割は「甲州の付加価値を高めること」と明言する。「甲州ワインの価格を高めたい。高いワイン、1万円の甲州を作ることだ」という。これをやらないと、シャインマスカットに負けるということだ。勝沼をワイン産地として守れない。
従来の国産ワインは輸入原料を混ぜて使い、安価なワインを造ってきた。しかし、「日本ワイン」表示規制(「日本ワイン」と称するには100%国産ブドウを使わないといけない)や、輸入ワインの流入との競争から、ワイナリーは100%国産ブドウを使用した日本ワインに成長戦略を切り替えている。国産原料の供給増加が不可欠であるが、醸造用ブドウの確保には強力なライバルがいる。それが生食用シャインマスカットである。
ワイン原料となる甲州種ブドウの価格は200~250円/kgである。生食用の巨峰、ピオーネは700円、新しい高級品種シャインマスカットは1500円以上だ。農家は当然のことながら、収益率の高い生食用のブドウを作りたがる。巨峰・ピオーネとの競争のときは、粗放栽培で済む原料用の甲州は250円でも取り組む農家がいた。しかし、1500円/kgのシャインマスカットと競争するには甲州の買い付け価格はもっと高くならないと、原料ブドウを供給する農家がいなくなる。ワイナリーは“シャインマスカットとの競争”の時代になったのである。
ワインの価格は、原料ブドウ価格の10倍といわれる。2000円ワインは200円/kgのブドウを使っている。500円のブドウを使うとワイン価格は5000円になる。
ところで、現在売れているワインは1000円以下が8割(輸入ブドウが主体)、1500円以上は2割である(国産ブドウを使用か)。こういう低価格では、原料ブドウの買い付けに高い価格を出せない。つまり、醸造用ブドウの供給は増えない。農家に高収益を保証するシャインマスカットと競争するには、醸造用ブドウの買い付け価格をもっと上げる、そのためにはワインの価格が高くならないといけない。
有賀氏の議論は、経済学的に、まったくの“正論”である。ワインの価格がもっと高くならないと、勝沼をワインの産地として維持し続けることはできない。原料ブドウを確保できないからだ。日本ワインの産地のリーダーとして非常に明快である。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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