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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第2回 甲州ワインの価値を高めワイン産地勝沼を守る 勝沼醸造株式会社(山梨県甲州市)
- 評論家 叶芳和
- 第22回 2019年02月28日
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5 価格と原料のジレンマ 第3の道は自社畑拡大
ワイン業界全体では、国産ブドウワインは価格を高くすると売れない。日本の現状である。有賀社長は「日本市場では2000円以上のワインはシェア6%である。せめて20%以上になればいいのに」という思いがある。「アメリカはフランスに次ぐ高価格になっている。皆で、そういうブランドを作り上げた。山梨も、皆がそうならないと、産地の将来はない。高いワインでも売り抜けるようになりたい」。
有賀社長は、世界の上流クラスの人が飲むワインを目指している。レストランで安くて5000円、ちょっと良いので1万円クラスのワインを追求している。今の甲州ワインの価格では、産地維持できないと考えている。もちろん、ただ価格を上げることはできない。もっと原料ブドウの品質を高め長期貯蔵に耐えるワインを造り、「時が醸し出す価値」を付けた高級なワインを造って価格を高めに持っていこうということである。高級・高価格を目指している。
経営戦略としては、量は増やさない方向だ。たくさん売るのは安くすることになるからだ。それでは勝沼に生産者がいなくなるという。
有賀社長の考えは「正論」である。ただし、価格が高くなりすぎると、消費者の支持を失うのも経済学の教えだ。原料の買い付け価格は上げるにしても、醸造・流通経費を抑えて、ワイン価格の上昇は極力抑えることが望ましい。もっと規模拡大、合理化などでコストダウンできないか工夫が大事であろう。高い価格を原料に払っても製品価格を上げなくて済むように、イノベーションが待たれる。
「日本ワイン」の競争相手は、輸入ワインだけではない。清酒も強力なライバルである。加えて、シャインマスカットなど生食用ブドウとも競争しなければならない。さらに、「消費者の壁」も忘れてはならない。価格アップ要因と価格ダウン要因が混在している。プライシングは結構難しい。日本ワイン業界は、経営者の挑戦が続きそうだ。
もう一つの道がある。生食用ブドウとの競争に惑わされないように、ワイナリー側は自社畑を増やしている。原料ブドウの供給は自社畑とブドウ生産者との契約栽培がある(後者が多い)。ブドウ生産者は生食用価格が高騰すると醸造用を減らす選択もありうるので、ワイナリー側は「日本ワイン」の成長を前に、原料の安定的確保を目指し、大手は自社畑の拡大を急いでいる。例えば、サントリーは17年4.6ha(中央市)、18年14ha(南アルプス市)、自社畑を開設した。レストランやカラオケチェーンを手掛けるシダックス(株)は新規参入し、北杜市に14年20haの自社畑を開設した。山梨ワイナリー業界では、14~18年の5年間で自社畑が約20%、55ha増えた。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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