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【山道弘敬の本質から目を逸らすな】
産業の健全な育成のために必要な施策の中心はICT農業では断固ない
- TOMTENグループ 代表取締役 山道弘敬
- 第1回 2019年03月29日
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一方、農業ではこの視点が歴史的にいつも欠落してきた。消費と無関係に過剰に生産され続けてきたコメを引き合いに出すことに異論はあるまい。農業大国・オランダをひも解くまでもなく、例外なく農業大国を支えているのは農産物を消費に結びつける加工産業の存在である。日本では、農業を支えるべき加工産業の育成がなおざりにされてきた歴史があり、生産サイドで生産技術革新に浮かれている最中に、新たに農産物を加工して消費に結びつけていこうとするプレイヤーについては、撤退こそよく聞く話ではあっても、新規に参入しようとする話などまれでしかない。
消費の現場を見れば、圃場で収穫された状態の姿でスーパーマーケットに並ぶ農産物はますます減少の一途である。生食用のイチゴやトマトなど一部の例外を除き、今後農産物のほとんどは加工されて初めて消費につながる。卸売市場で取引される農産物であっても、小売業などの一般消費に通じる仕向け先は一層落ち込むに違いない。市場を経て仕出し屋や総菜店、レストランなどの業務用市場に販売されている量も少なくないであろう。すなわち、これからの農業は加工産業とともに歩んでいく視点が最も大切なのである。
しかしながら、農業サイドにはいまだに「カット野菜は農業の敵だ」みたいな議論が渦巻いている。筆者はもともと農産加工業の出身者である。30年以上も前の話ではあるが、筆者は加工用馬鈴薯を調達することが仕事の主体であり、生産者と取引しているなかで加工屋は生産者の敵のような視線に悩まされ続けた。本来、車の両輪でなければならない加工業と農業とが敵対するおかしな風潮に、強く改善の必要性を感じたものである。そして今日、それは喫緊のテーマですらあるが、農業の繁栄に関連するような加工産業の育成はいまなお農業の課題として真剣に取り組まれたことがない。農林水産省は国産フレンチフライの生産拡大といった目標を掲げ続けてきたが、種すら播くに至っていない。
振り返れば、日本の農業を支えるべき食品産業を指導・育成する政策的立場はそもそも支離滅裂である。農産物は農林水産省が管轄し、加工食品の衛生面については保険所を管轄する厚生労働省が中心であり、産業という立場からすれば経済産業省になろう。これでは農産物を基軸とする加工産業の育成という一貫した政策に結びつかないのは当然である。
農業の特徴としては、生産が天候に左右されやすい側面は否定できない。したがって、安定した量を確保することは容易な産業ではない。だが、加工産業の立場からは需要先としての流通業から安定的な供給を強く求められている。ここで加工産業との両立を目指すうえで、量の安定確保という課題の重要性を指摘しないわけにはいかない。日本の加工産業の雄であるカルビーでは、10年間のうちに3年しか十分な原料を確保できていないと説明されている。一度原料の減産に見舞われると、せっかく盛り上がってきた消費に水を差すことになり、再び元の状態に戻すのに何年もかかるという。つまり、農業が加工業とともに両輪となって産業の育成という目標に向かうためには、まず量の安定をしっかりと実現していくことが外せない。
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山道弘敬 ヤマミチヒロタカ
TOMTENグループ
代表取締役
1955年、北海道苫小牧市生まれ。北海道大学農学部農業工学科卒業。食品加工メーカーなどを経て、2004年に(有)TOMTENを設立。その後、株式会社化し、農産物の乾燥・貯蔵・鮮度保持を中心に事業を展開している。13年から大型鉄製コンテナに入れたタマネギを大量に施設乾燥させるアスパレーションシステムの提供を始めた。一方、ポテトニュースジャパンウェブサイト(http://www.potatonews.jp/)を運営するPotato News Japan(有)の代表編集委員も務め、農業ジャーナリストとしての側面も持つ。北海道帯広市在住。
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