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しかし、20世紀半ばから農家数が一次急激に増えている。その数は1700万人を超え、米国の農家数の約3倍にも膨れ上がった。他の8カ国の農業人口の総和より多いぐらいだ。戦時体制と戦後の農地解放という政府統制により農家数の人工的な調整が行なわれたためだ。
いまだにその時代の農家数を前提とした中央集権型の農政システムが日本には残ってはいる。しかし、その後の農業人口動態を根本的に変えたのは民間主導の機械化である。60年、70年代以降、その普及で急激な農家の減少時代をたどるのは読者諸氏もご存じのとおりだ。
次に先進国農家が生み出す富(生産額)についてみていこう。図5が示すとおり、ここ10数年だけで約2倍に増えている。同じ時期、農家数は300万人減少したにもかかわらずだ。1農家当たりの生産額は2000年の約3万ドルが12年には9万ドルと3倍になっている。これが先進国農家の実力である。
新興国の農家も先進国と同じ道をたどり始めている。図6と図7をご覧いただきたい。アジア主要5カ国の労働人口に占める農家比率と農業付加価値額の推移を示した。付加価値額とは簡略化していえば、生産額から生産費を引いたものだ(国別の農業付加価値総額を農業従事者の数で割って計算される)。農家1人当たりの労働生産性を比較するときに用いる国際統計だ。北朝鮮を除き、農家減少に伴い生産性が向上している。なかでも、農業付加価値額で堅調な伸びを示すのが中国だ。2017年、1農家当たり6000ドルに迫り、近いうちに1万ドルの大台に乗る勢いだ。
並行して、中国の農家比率は猛烈な勢いで下がっている。1991年には労働人口の6割近くいたが、最新統計では17%と4割減である。日本の1970年代の水準まで来ている。
一方、5カ国中、農家比率が唯一増え、まったく減少していないのが北朝鮮だ。政府統制による人工的な職業配置が背景にある。職業選択の自由や農民の財産権を認めてきた中国と対照的だ。農家が豊かになる第一歩は農地や資源の多寡ではない。経済活動の自由である。
自由を手に入れた他のアジア諸国でも徐々に豊かになってきている。インドネシアやタイの農家の付加価値額は3000ドルを超え、現在、インドとベトナムが1000ドルを突破したところだ(北朝鮮は付加価値額の統計さえ不明である)。
アジア主要国の付加価値額変化をみていくと、あることに気づく。経済発展が著しい国ほどその増加額も大きい。そこで図8をご覧いただきたい。経済的な豊かさの指標である国別の1人当たりGDP(横軸)と農家1人当たり付加価値額(縦軸)の推移(1990-2015年)をマッピングしたものだ。予想どおり、1人当たりGDPの伸びが大きい国ほど、その国の農家の付加価値額が上昇している。図の右上に双方が高い先進国、真ん中あたりに新興国、両方とも低い途上国が位置している。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
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