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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第3回 イノベーションで先導し 産地発展の礎を築いた シャトー・メルシャン(山梨県甲州市)
- 評論家 叶芳和
- 第23回 2019年03月29日
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1 ワイン発祥の地
日本でワインが本格的に産業化したのは明治初期、山梨県勝沼(甲州市)であった。ブドウ栽培発祥の地も、甲州種の起源が1300年前の奈良時代説にせよ1186年説にせよ、勝沼である。中央アジアのコーカサス地方カスピ海沿岸からシルクロードを経て中国経由で伝来し、気候風土の合った勝沼に定着した。ワインの歴史は勝沼抜きには語れない。
この勝沼に、日本最初の民間ワイン会社「大日本山梨葡萄酒会社」が設立されたのは、1877年(明治10年)である。
前史がある。文明開化の明治時代、ブドウ栽培・ワイン醸造は殖産興業政策の一環として位置づけられた。71年(明治4年)、山ぶどう・甲州によるワイン醸造が甲府で行なわれており、73年、大久保利通は殖産興業の推進として葡萄酒づくりを奨励、74年、山梨県令・藤村紫明の指導の下、官業としてワイン事業が発足、77年、山梨県勧業試験所で甲州によるワイン醸造の歴史があった。同年には殖産興業の父とも称される前田正名(『興業意見』の作者)も欧州視察から帰国し、欧州系ブドウ栽培とワイン造り手法の導入が本格化した(注、米からの酒造りを節減する発想と文明開化期の西欧化の風潮もあったようだ)。
日本初の民間ワイン会社は、勝沼の二人の青年をフランスに派遣した(77年)。土屋龍憲(19歳)と高野正誠(25歳)は現地で、ブドウの苗木づくり、醸造、貯蔵の技術、気象条件、土壌について学び、79年(1年7カ月後)帰国し、ワイン醸造技術を地元に広めた。それ以来、勝沼でワイン醸造が本格化した。この民間初のワイン会社を源流とするのが、勝沼に立地する「シャトー・メルシャン」である。
シャトー・メルシャン勝沼ワイナリー(松尾弘則工場長)はキリングループのメルシャン(株)が山梨県甲州市勝沼に有しているワイナリーである。メルシャンは勝沼のほか、神奈川県藤沢市の工場で輸入ブドウ果汁を原料として国内製造ワインを造っている(生産規模は勝沼の100倍)。勝沼ワイナリーは100%国産ブドウを原料とする日本ワインを造っている。さらに近年、長野県に新しいワイナリーを二つも増設し、日本ワインの未来に積極的に投資している(注、本稿では輸入原料の藤沢工場は分析の対象外とする)。
2 世界に認められる「産地」を目指す三つのワイナリー
メルシャンは国内製造ワインの最大手であるが、日本ワインは年産65万本(720ミリリットル換算)、国産ブドウ使用量は650tに上る。うち500tは契約栽培である。表1に示すように、契約栽培農家は福島、秋田、長野、山梨に約70人いる。また、自社管理畑を増やしており、2018年末現在で50haに達しているが、27年目標は76haに拡大する予定。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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