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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第3回 イノベーションで先導し 産地発展の礎を築いた シャトー・メルシャン(山梨県甲州市)
- 評論家 叶芳和
- 第23回 2019年03月29日
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収穫は、会社から15人位(20a分)、朝7時に来て9時前に終わる(朝取り)。収穫適期はメルシャンが指定する。「きいろ香」ワインになってから、収穫は8月28、29日頃に早まった(勝沼より1カ月早い)。五一わいんは糖度を上げてから収穫するので9月20日までかかる。
一番興味を覚えたのは、メルシャンによる試飲会だ。組合員はメルシャンのブドウを作ることに誇りを感じている。ブドウは産地によって成分が違うが、サンプル調査で、「甲州きいろ香」が一番良かった産地は七沢地区だという。誇り高い。さらに、試飲会の仕組みだ。ブラインド・テスト(目隠し)があり、どの農家のブドウで造ったワインが美味しいか競争する。優勝者のワインにはラベルに名前が入るようだ。「メルシャン版天皇賞」だ(筆者の比喩)。優勝すれば誇りである。来年は自分が一番になりたい、良いものを作ってやろうと、皆が競う。「競技」だ。取材中も、この話になると和気あいあい、明るく賑わった。大変良い催しだ。ワインビジネスだからこそできる手法である。昔ながらの旧き良き農村風景を想った。
ここも、農家の高齢化に伴い、甲州が増える方向だ。福井氏は面積が大きいので、父の代から手間のかからない甲州を栽培してきた。鷹野氏は3年後、生食用を減らし甲州を30aに増やす(いま高齢者が手伝いに来ているが、彼らがいなくなるので甲州に転換)。中込氏は以前ブドウ苗木を作っていたが、父が高齢になったので止め、甲州に転換した。このように、高齢化の受け皿が醸造用の甲州になっている。仮に、メルシャンが甲州を買ってくれないと、耕作放棄地になりかねない。
出荷組合の醸造部長・福井氏によると、「現在、甲州は30t(約1ha)であるが、今後は40tくらいに増える」という。周辺農家も含めて、後継者はいない。幾つかのワイナリーから土地を貸してくれとの話も出ているようだ。高齢化の進行に伴い、ワイン醸造用の甲州は増える方向にある。日本ワインは原料面からも追い風が吹いているといえよう。
(注)甲州種のプライシングに関して、前号は少し修正が必要かもしれない。醸造用ブドウ甲州の供給は価格と農家高齢化の関数であるが、価格が一定(例えば200円/kg)以上であれば、高齢化の決定係数の方が大きいかもしれない。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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