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農業経営者/農村経営研究会2019年新年会 講演採録

地方都市における農業改革【実践論】山口市を事例に

小社顧問の浅川芳裕氏は2016年、山口市の「もうかる農業創生アドバイザー」に就任した。これまで世界や日本の農業を論じてきた浅川氏だが、市の農林政策課六次産業推進室からアドバイスを求められたのを機に、地方都市を舞台とした農業改革に自ら乗り出した。講演では、3年にわたる活動を通じて編み出した「実践論」として、地域マーケット分析から戦略立案、戦略実行のための組織・仕組みづくりのノウハウを披露した。
浅川氏がとりわけ力を注いだのは、従来の固定観念を変えることだった。人々の意識がどう変わり、それがどんな農業改革につながっていったのか。以下、浅川氏の講演の概要を紹介する。

欠乏ベースの価値体系からの転換

旧来の市町村農政は中央集権のヒエラルキー(階層制)の末端にあり、自主性が発揮できる余地が少ない。具体的にいえば、農水族から農林水産省、農業団体、都道府県と連なる意思決定の最下部に位置しているからだ。
したがって、市町村農政は地域差に関係なく、あらかじめ国・県で決まった農業政策メニューに沿って、域内農協・農業者向けの事務をきっちり代行するのが役割とされてきた。
生産者も市町村と同じ構造の中にいる。稲作農家を筆頭に国や県から下ってきた交付金・補助金メニューをきっちり消化することが役割である。消化すればするほど、優秀だとして表彰される。
このヒエラルキーは、食料生産の資源制約があった時代に生まれた。中央集権的な指示命令システムである。言い換えれば、希少な農地や食料をきっちり再分配する仕組みである。本誌の昆編集長がたびたび言及するように、「飢えの時代から過剰の時代になった」にもかかわらず、「欠乏」をベースにした政治・行政の価値体系が残っているのだ。国策である食料自給率向上などはその典型である。
この旧来の価値体系と指示系統から少なくともマインド面で脱しない限り、市町村農政の自立、独自性の発揮はありえない。そのためには、新たな価値体系への転換が求められる。その旗印には新たな農政ミッションが必要である。それは欠乏ではなく、市民の豊かさの追求に基礎を置かなければならない。
そこで浅川氏が次のミッションを提案した。

「山口市の農業は市民の食の豊かさと健康のためにある」

このミッションをもとに、市役所の担当者と協議を重ね、新たな価値体系を構築していった。図1のとおり、ピラミッドの頂点に「市民の豊かな食生活実現」を置いた。それを支える屋台骨として農業者を中心に「食と農の戦略会議」を設置した。その間を客観的につなぐのが「市内のマーケット分析と戦略立案」機能である。これが浅川氏のアドバイザーとしての仕事だ。そして、市役所の役割としては戦略をもとに、「市内の食と農のプレイヤー同士(=会議メンバー)をつなぎ、市民の豊かな食生活」を実現するための事業立ち上げとコーディネーター機能と位置付けられた。

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