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新たな価値体系の戦略会議と市役所の役割
最初に手掛けたのが戦略会議の立ち上げである。参画を呼びかけたメンバーは市内在住の各業界のプロたちである。育種家から農学者、農業者から農協、流通業から加工業、外食産業から中食産業、小売業からコンビニまで、市民の豊かな食生活にそれぞれのステージで関わるプレイヤーだ。
戦略会議の特徴は、農政ヒエラルキーのような上下関係がないことである。参加メンバーは、コラボレーション(知的協業)またはパートナーシップ(動的協業)の関係にある。そこには、豊かな食生活のために市民に価値を届けるバリュー・チェーン(価値連鎖)において相互に協力する意志のある者が参加できる。
会議といっても、一堂に会して決を採るような公式の場ではない。市役所の音頭で、異業種のプレイヤーがざっくばらんに出会い、山口市の農業、食を盛り上げるために何かできることはないか、自由闊達な意見交換をする場である。そうした面談を無数に繰り返しているうちにできたのが、山口市の「食と農」戦略 全体スキーム(図2)である。
これは従来の“お上”から授かる農業政策とは成り立ちがまったく異なる。山口市内の農食ビジネスの当事者と市役所が共に作り上げた、市民の豊かな食生活を実現するための具体的な仕組みとロードマップ(道筋)である。
こうした仕組みにもとづく実践を繰り返しているうちに、市の担当者も手ごたえを感じてきた。農業者からも食関係の事業者からも「これまでとは違う」と好評だったからだ。
その結果、担当者が自らの役割について、明文化するステージに到達する。こんな文章だ。
「山口市の農産物の商流(生産・流通・販売・消費)をつなぐため、耕種農家、畜産農家、機械メーカー、種苗メーカーといった農業に関わる人々のコーディネーターの役割を果たす」
担当者はさらに進めて、山口市の農業ミッションをこのように表現するようになっていった。
「農業の成長産業化の実現を共通目標に掲げ、高い専門性を持つ関係者が連携・協働する体制を構築し、山口市農業の職業としての未来を示し、農業を志す若者に、そして豊かな人生を志す人々に選ばれる山口市の実現を目指す」
こうした段階に至る数年前の2015年、浅川氏はアドバイザーを引き受ける条件の一つとして、ある前提を提示した。山口市内の食農マーケット調査と分析業務の受託である。「市民の消費実態と農業者の生産実態」の客観データにもとづく戦略立案を行なうためだ。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
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