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「六次産業化や農商工連携、スマート農業など国のメニューと結論ありきのコンサル業務なら別の人に任せればいい」
データ分析と仮説にもとづいて初めて、戦略立案から事業開発、市内の生産、流通、市民の消費、健康増進に連なるアドバイザリー業務ができる。先述した市民のための新たな価値体系(図1)づくりや食と農の戦略会議も、この前段調査と分析をもとに構築したものだ。
市内のマーケット分析を基にした戦略立案
ここで浅川氏が講演中に言及した食農マーケット調査結果の一部を紹介しよう(詳細は「山口市の農産物生産実態把握(2015年)」としてまとめられている)。
戦略立案にいちばん重要な情報は何か。農家が何を作っているかではない。山口市民が何の農産物・食品に身銭を切って年間いくら支払っているか、である。
まずは全市民の食支出総額を推計してみた。その額は1131億円にも達する。今度は品目別に調べてみると面白いことがわかった。コメへの支出額の基準にすると、野菜がその8倍、畜産酪農品は15倍にも及ぶ。
次に、市内すべてのスーパーと数十カ所ある朝市・直売所・道の駅(直売ルート)を全件訪問し、品目別の売上聞き取り調査を実施した。野菜に関しては、直売ルートの売上が3億5千万円であるのに対し、市内のスーパーでの売上は約90億円もある。市民が選ぶ野菜購入ルートの95%以上がスーパーなのだ。
あわせて、市内生産者の出荷先調査と課題について聞き取りした。農家らは「出荷先が直売ルートに集中しており、過当競争に苦しんでいる」と口をそろえていう。
そこで単刀直入に聞いてみた。直売ルートの需要がいっぱいなら、どうしてスーパーに売らないのか。一様に返ってくるのが、「安く買いたたかれるから」だ。苦い取引経験からそう答えているのかといえば、そうではない。一度も取引したことがないと口をそろえる。ところが、将来の農業経営の目標はと聞けば、東京や海外の高級スーパー、デパートで自分や地域ブランドのものを売りたいと抱負を語りだす。
一方、地元スーパーは山口市内産の野菜が欲しいと言う。あるスーパーは「最低1億円は仕入れたい」と即答した。問題は単純だった。地元の生産者と地元の小売バイヤーはお互いに会ったことがないだけなのだ。
そこで、戦略的に三つの実践プログラムを組んでみた。
一つ目は、地元スーパーのバイヤーとの商談の設定だ。二つ目は、農場とスーパーの相互視察受け入れ。三つ目は、市内流通システムの構築である。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
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