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まずは、供給と需要サイドがお互いの存在を知り、市民のためにいいものをできるだけ安く提供するために何ができるか、チームを結成しなければならない。
チームの合言葉は、「山口市ファースト」だ。ミッションは先に掲げた「山口市農業は市民の健康と生活の豊かさのためにある」である。
供給の農家サイドでは、山口市で営農にあたり、山口市民の税金を使って、農業機械の補助や農村集落維持の助成を受けるなど、恩恵を受けている。またスーパーなどの需要サイドも市道や水道をはじめ、市税による基礎インフラの整備などによって、現在の食関連事業が営められている。山口市で農業・食の振興をするのなら、市税を使って促進しているのだから、「山口市民のため」に立脚した視点以外、本来、不要である。
大都市民のためでも、観光客のためでもない。これまでセカンド(二級)市民、サード(三級)市民扱いだった山口市民をファーストに農と食を取り戻さなければならない。その戦略として、実践プログラムをつくった。
まずは、実践1「地元スーパーのバイヤーとの商談の設定」からスタート。ここで「山口市ファースト」の意味を農業サイドに伝えるにあたり、ある仕掛けをした。地元で「いちばん安売り」とみなされているスーパーを選んだのだ。
旧来の農業の常識でいえば非常識といえるかもしれない。いいものを市場を通じて大都市民に売り、悪いものを安く直売所に売ってさばき、市民の大半が利用するお得なスーパーにはモノを出さない。そんな市民セカンドからの脱却を図る、ショック療法としてあえて「いちばん安い」スーパーを選択したのだ。
農家はあまり乗り気ではなかった。本人たちも、そのスーパーで常日頃から買い物をしていて、安売りイメージを持っていた。だから、「買いたたかれるに違いない」との先入観が満ち溢れていた。なので、商談を前に、スーパーのバイヤーからは取引条件やポリシーを開示してもらった。すると、身構えて聞いていた農家たちの顔が、だんだんと安堵していくのがみてとれた。想像より条件が厳しくなかったからだ。
さて、いよいよ商談だ。作っている産地の特徴や農産物の種類、品種など、自由に語ってもらった。最後に希望買い取り価格を提示した。
バイヤーからの回答に農家が唖然とした。商談参加者の提示した価格がすべて、即決オッケーだったからだ。この単純な経験は、経済学の祖アダム・スミスが何世紀も前に『国富論』で端的に記している。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
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