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「都市の近くの農民は農業の通常の利益だけでなく、生産物の販売価格のうち、もっと遠くの地域からの同じ商品を運ぶのにかかる経費と差額を利益として得られる」
当初の「買いたたかれるのでは」との懸念は完全に払しょくされた。次のステップとして、生産者にスーパーの販売データを示して農産物のニーズを詳しく知ってもらった。同時に、バイヤーを畑に案内して信頼関係を築く作業を行なった。
このステップを経て改めて商談会を開催したところ、集まった農家全員の商談が成立した。商談から取引を開始した一人の生産者にモデルケースになってもらった。初年度、400万円の収益増を達成。初めてスタッフを雇用できるまでになったトマト農家だ。彼の成功体験がほかの生産者に伝わっていった。「バイヤーさんにうちにも来てほしい」という生産者からの声が自然と聞かれるようになった。これまで恐れていた地元スーパーへの飛び込み営業を始める農家も出はじめた。こうして生産者とスーパーの取引が次々と開始されたのだ。
実践プログラムの第2ステップをクリアし、いよいよ最終段階に入る。地域内流通システムの構築である。
地域内流通システム
地域内流通システムとは何か。生産者が1カ所の道の駅に出荷すれば、市内スーパーや他の道の駅にも農産物が届けられるという仕組みである。そして、市民はどの道の駅やスーパーに行っても市内産のものを買うことができる。
生産者にとっては、これまで複数の出荷のためにかかっていた時間や物流費が節約できる。と同時に流通の合理化によって手取りも増える。12名の生産者が参画している。
現在、週1便の実証試験中であるが、市民に好評で開店前から列ができ、開店から1、2時間ほどで売り切れる状況が続いている。来年度から週2便、3便と増やしていきながら、新たな道の駅での試験導入も図っていく予定だ。
受発注の仕組みも斬新だ。生産者とバイヤーとが「グループLINE」でやりとりしながら、成約しているという。LINEのコミュニケーションによって、注文機能を超えた副次的な効果も出ている。
生産者同士が畑の画像を撮って栽培技術の情報交換をしたり、その様子をみたバイヤーが「その野菜、珍しいですね。ぜひ売ってください」といったメッセージが入ったりする。生産現場のリアルな情報を生産者とバイヤー間で共有することで、自然と新たな価値を消費者に提供できるツールになってきている。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
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