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今後はさらに進めて、播種前の生産計画とスーパーの販売計画を共有、シンクロさせる仕組みを構築する予定である。その目的は農業経営の安定のためだけではない。播種前から収穫までの情報を市民と共有することで、市内産農産物のファンを増やしていく。
ミッションである「山口市民の豊かな食生活の実現」への道のりは始まったばかりだ。
コンビニと連携した商品開発
スーパーとの連携に続いて、目指したのがコンビニとの関係強化である。山口市内の食品市場規模は消費額で1000億円を優に超える。浅川氏が調べたデータ分析によると、市内で成長している分野は弁当や総菜などの中食だ。とくにコンビニで伸びが著しい。
近年、農家開発の加工品が増えているが、多くは売れ行きに限界が出ている。それより最初からコンビニと連携して開発した商品をコンビニで販売してもらうほうが合理的だ。当たり前だが、コンビニが置きたくなる商品、つまり消費者が買いたくなる商品は、プロであるコンビニのほうがよく分かっているからだ。
そこで広島県に本社を構える(株)ポプラというコンビニに戦略会議に参画してもらい、現在、先行モデルとして山口市産の商品開発の取り組みを始めたところだ。
以上のような地元スーパーやコンビニとの連携強化に加え、ミッションにある農業が市民の健康に貢献する取り組みとして、食と健康のプラットフォーム「山口イノベーションファーム」構想も立ち上がっている。
永続する畑作文明圏の構築へ向けて
前述の実践に加え、戦略スキームの中には「新たな経営作物の提案」がある。その先行モデルの一つが飼料用子実トウモロコシ(以下、トウモロコシ)の導入である。
コメの生産性が向上し、需要が減退するなか、余剰農地が発生しているのは山口市も例外ではない。耕作放棄地は1000haを超える中、新たな経営作物が求められている。
昨年までの2年間、飼料用子実トウモロコシの生産・利用実証試験を行なってきた。来年度からは、トウモロコシを含む輪作と放牧を取り入れた新たな混合農業の形をつくる取り組みを始める。
当初は「山口市ではトウモロコシはできない」「飼料用米政策の妨げになる」との声が関係者から挙がった。固定観念を払しょくするため、市民の食を豊かにするという観点と、土壌改善効果によって農業を豊かにする観点から、市の担当者が中心となり、多方面に説得を試みた。反対意見もあるなか、それでもやろうという生産者が現れた。一作目を終え、作付けした生産者はトウモロコシの期待以上の土壌改善効果に驚いた。経営分析も行なった結果、作業時間は稲作の8分の1、時間当たりの労働生産性は同5倍という成果も出た。こうした成果を山口市主催の子実トウモロコシセミナーや実演会、座談会などを通じて、現場に発信していった。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
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