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北海道長沼発ヒール・ミヤイの憎まれ口通信

蝦夷を望む 第2話

ド、ドォー
一瞬の出来事だった。まるで小船が大波に飲み込まれたような衝撃を感じた。
天を見上げれば床が見え、足元を見れば天井が見え、隣にいた猫が宙を舞っていた。
その瞬間、「地震だ! みんな逃げろ」
だが揺れはまだ続いていた。家族に声をかけるが返事がない。外はまだ暗く日の出まで時間があり、ほどなく電気はすべて消えてしまった。
どれくらい揺れたのだろうか、瞬きをするたびにその光景が脳裏に焼きつくされる感情を覚えた。
必死に暗闇の中で家族を探した。
「おーい、大丈夫か」
息子のか細い声が聞こえた。
「父さーん、ここだよ」
息子の声は聞こえるが、上にいるのか下にいるのかわからなった。
そのとき、周りの瓦礫が動いた。
「父さんここだよ」
息子が自分の足首を触っていた。遠くにいたと思っていたが、崩れ去った家の柱のすぐそばにいた。
「大丈夫か」
息子は安心したのか小さな声で「うん」とだけ答えた。
その短い会話だけで十分安堵した。
「母さんとお姉ちゃんはどうした」
「わからない」
妻と娘を探そうにも体が動かない。息子が握った足首を擦ってみると先ほどまで何も感じなかったのに、所々に痛みが走るが、骨は折れていないようだ。
息子は瓦礫のなかをかき分けてやってきた。二人とも宙を回っていたわりには軽症で済んだ。
二人で妻と娘を探した。柱や壁は折れ曲がり、所々に釘が飛び出ていたがそんなことは気にしなかった。
「いない、どこに行ったんだ」
息子が叫んだ。
「こっちにいるよ!」
息子の声のするほうへ這って向かった。
「おい、大丈夫か、返事をしろ!」
妻の顔を叩いたがまったく動かなかった。5歳の娘の顔を叩いた。まるで人形を叩いているかのようになんの反応もなかった。
妻と5歳の娘は二階で一緒に寝ていて下の居間に突き落とされたのだ。それでも父は二人の体を揺らし続けた。
息子は何度も「お母さん、お母さん」と叫び続けた。
なぜだ、なぜなんだ!
アイヌの言い伝えは本当だったのだ。

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