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木材は知り合いの大工さんから分けてもらったので安く抑えられて、手持ちの道具で作業できたのは幸いだったが、給湯器やトイレなどは設備屋さんに、外壁のサイディングと柱の補強と交換は大工さんに、電気の設備は電気屋さんに外注した。材料費に約60万円、外注作業に約100万円を支払って、トータルで160万円ほどかかった。
苦労した点といえば、予想以上に時間がかかったことである。まだ普及員をしていたときに作業を始めたので定かではないが、手帳を確認してみるとたった15坪の施設に、約200時間、1年近くかかっている。自賄いでもそれなりに資金がかかり、プロフェッショナルに頼む以上に多くの時間を要することを実感した。
築40年以上経過した建物に愛着があったのでリフォームを選んだが、参考までに自宅のリフォームをしてくれた建築会社に見積りを依頼してみた。すると、同じ物を新築したら、同様の装備でも200万円ぐらいで建つというのだ。この回答には、正直なところ相当なショックを受けた。古い建物は水平が狂っているので、直角を出すにも、材料を切りそろえるにも、床を作るにも技術を要する。古い材料をできる限り活用して、新しい材料を最小限にしたのに、自らの工賃を除いて160万円。かたやプロが最初から新品の材料で200万円。大工仕事が好きだし楽しかったので愛着が増したのだが、建物の機能だけを切り取って考えると、新築のほうが断然優れているだろうと思うと、複雑な思いに駆られた件であった。
私が生まれ育った頃に比べても、豊かで便利な世の中になり、自分でモノを作ったり、カスタマイズしたりする機会が少なくなっている。そもそも不便な時代は、自賄い以外の方法がなかった。買うことができないから、道具まで工夫を凝らしていたのだ。その頃の感覚で考えれば、モノは買うと高く、作ったほうが安いというのが一般的な認識であろう。
しかし、いまやホームセンターや農業資材販売店のカタログを見ると、出来合いのものも種類は豊富で思いのほか安い。自賄いでの修理・修繕、カスタマイズは、材料代だけ考えると安いが、実際にかかる作業時間を考慮すると高くつく。一般的な労働賃金が低く、自給自足あるいは兼業全盛の時代には良かったが、家族のほかに従業員もいて、時間を上手に使わなければならなくなった昨今は、楽しいからと没頭してはいけないと考えるようにもなった。頭の中ではバーベキューコーナーも作りたいし、宿泊施設も手作りしたいのだが、自問自答しているところだ。
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齊藤義崇 サイトウヨシタカ
1973年北海道生まれ。栗山町在住。昨年、普及指導員を退職し、実家の農業を2014年から営む。経営は和牛繁殖、施設園芸が主体。普及指導員時代は、主に水稲と農業経営を担当し、農業経営の支援に尽力した。主に農業法人の設立、経営試算ソフト「Hokkaido_Naviシステム」の開発、乾田直播の推進、水田輪作体系の確立などに携わる。
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