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実践講座:したたかな農業を目指す会計学 続・入るを計り出を制す!

費用対効果と投資対効果(5) 自賄いの真価を問う



購入品頼みのリスクを忘れてはいけない

自賄いは思いのほか割高であることを示したものの、自賄いの醍醐味に「費用が抑えられる」というメリットがなければ、購入品・外注頼みのほうが強い経営といえるのだろうか。費用対効果を突き詰めて、コスト削減を進める際の落とし穴とも言えるポイントだが、ときどき立ち止まって考えていただきたい。
昨今、日本各地で相次いでいる自然災害に遭って、ハッとした方もおられよう。災害が発生すると、日頃当たり前に安価で利用している物流などのサービスが停止する。試されるのは、プロフェッショナルの到着を待たずしてどうにかする「自力」だ。問題なく事業を継続できるのは、リスクを許容できる備えがあるからで、発電機や水瓶などの物理的な備えに注目が集まるが、それだけではない。自賄いの餌や堆肥があることで、物流が止まっても平常心でいられるのである。
自然災害に関わらず、国際情勢による為替変動により購入価格が高騰したりした場合にも同じことが言える。いずれにしても経営の外側で起こり得る緊急事態に振り回されずに済むのである。何が起こるかわからない時代ゆえに、日頃から自賄いを経験して、自力の腕前を磨いておくべきだろう。もし、身近にいるベテランの農業者や父母、祖父母がそのノウハウを持っているのであれば、伝授してもらっておきたいものである。
自賄いの良さはもう一つある。経営のなかで生み出したものについては責任を持ってトレーサビリティを説明できるという点だ。資材や飼料なら運搬・保管のコストを圧縮できる上に、生産工程から品質管理までをコントロールできる。また、消費者のなかには製造過程を物語として理解する方も増えているように思う。このことは販売促進に貢献するだけでなく、「手作り」や「お手製」が付加価値になることもある。そうなると自賄いを取り入れた農業生産を楽しむことが、経営にプラスに働くことになるだろう。
得意か不得意か、好きか嫌いか、さらには経営環境にも影響を受けるが、広く捉えれば農業生産自体が食べ物の自賄いである。しかし、その達成感は、関わった人にしかわからない。達成感の積み重ねが、農業経営のやりがいや従業員、家族の士気高揚につながるなら、楽しみつつ自力増進と捉えて、時間を費やしてでも実践する価値があると思う。

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