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「農研機構からサブサブ・ジェノタイプのことは出さないようにとの指示がありました。理由は分かりません」
次に農水省のホームページをチェックしてみた。豚コレラのサイトをくまなく探しても系統樹のことは見つからなかった。岐阜県や愛知県がホームページに掲載しているのに、農水省が掲載していないことに疑問を抱いた。動物衛生課に電話をしたら担当者が出てきて次のような説明をしてきた。
「系統樹は、農研機構のもので勝手に使えない」
思わず相手を怒鳴りつけてやろうかと思ったが、相手が担当者なのでやめた。この説明は貴重なヒントになった。農水省と農研機構がグルになって何かを隠そうとしていると直感することができたからだ。その事情も察しがついた。サブサブ・ジェノタイプのことが知れ渡ったら、国備蓄のワクチンの有効性が問題となり、批判の矛先が動物衛生・技官グループに向かうことを恐れているのではと勘ぐった。
新型ウイルスに従来ワクチン効果なし
あらゆる遺伝子関連の情報を収載している米国国立医学図書館(NCBI)ですぐに検索をかけてみた。論文はそう多くはなかった。これだと思ったのは、中国・ハルピン獣医研究所の「急速に出現する『2・1d』タイプの豚コレラ・ウイルスへのC株ワクチン効能評価」という論文。
「C株ワクチン」とは、中国の英語名のイニシャル「C」のことだ。1950年代半ばに開発された。70年近く活躍していた豚コレラ・ワクチンだが、このワクチンを接種しても豚コレラを発症するケースが2014年に急に増えてきたのでハルピン獣医研究所がその原因を調べていたのだ。その成果を論文にまとめたもので、NCBIへの投稿は17年1月だった。2・1dタイプの新型ウイルス「HLJZZ2014」についての部分に注目していただきたい。
「C株ワクチンは、2・1dタイプのウイルス『HLJZZ2014』に感染させた豚は、臨床的防御は示したが、病理学的またはウイルス的防御は示さず、すべて生きながらえた」
ハルピン獣医研究所は、農研機構に該当する。そのルーツは旧満州(中国東北地方)時代に遡る。現在は瀋陽市となる奉天に南満州鉄道が設立した獣疫研究所がルーツだ。C株ワクチンもここで誕生した。獣疫研究所の日本人研究員らが協力させられたというエピソードが残っている。
熊谷課長が、「2・1d」と答えてきたので、次は国備蓄のGPワクチンの効能評価を質問してみた。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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