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専門家インタビュー

土壌学者(ペドロジスト)に聞く農地の土壌との付き合い方 前編~土壌断面調査から読み解く土づくり~


――その研修会で得られた手応えはどのようなものでしたか?
大倉 現場で圃場をいくつか見せてもらったときに、プラウで起こした所や、プラウ耕で上がってきた下層の土を見て私が話したことに、奥山さんがとても感動してくれました。表層の作土を見ただけで、その圃場の履歴までわかってしまうのかってね。圃場の土壌の成り立ちについて、周りの地形や環境との関係を踏まえて想像して話したことが、ことごとく腑に落ちたと。その対話から圃場に穴を掘って土壌断面調査をしましょうという話が進んだわけです。
――この出会いは農家の役に立てるという自信につながりましたか?
大倉 自信になりましたね。農研機構の研究者はどうしても県や普及センターと違って、基本的に守備範囲は全国なんです。でも、どこかに拠点があるわけでもないので、ローカルの気付きを得た人から一緒にやりましょうと声をかけてもらったことで、もの凄いやり甲斐を感じて良い機会が生まれたと思いました。

土壌の“顔つき”の違いを観察して、知ってもらいたい

――今日は、土壌断面調査のノウハウを学ぶために、フィリピン・ビコール州立大学から私費で来日されているビジィさんのトレーニングにお邪魔しています。
大倉 ここは筑波台地の典型的な2種類の黒ボク土が保存されている場所なんですよ。耕す前の、いわゆる自然の状態で黒ボク土がどういう風に生成してきたのかがわかる非常に貴重な場所です。農業環境変動研究センター(茨城県つくば市)の敷地内にあって、普段は人の出入りを制限しています。2004年に掘った穴を埋め戻さずに蓋だけしておいて、国際学会の見学会や土壌調査のトレーニングの際にいつでも断面を説明できるようにしてあります。
――なぜ近い所に2カ所の穴が掘られているのですか。
大倉 地形のちょっとした起伏によって、黒ボク土の顔つきがこんなに違うということがよくわかるから。一つは低く窪んだ所にできるもので、もう一つは台地の上でも平らな所あるいは普通の所にできる。2カ所の土壌断面を見比べると、たった20mも満たない距離で徐々に変わってきていることがわかります。
――断面の“顔つき”の違いをもう少し詳しく説明いただけますか?
大倉 低く窪んだ所には、かつて川の支流が流れていました。いまでも台風が来て大雨が降ると、水が溜まって浮いてきます。土も水も低い所に集まってくるので、有機物を多く含む黒土もたくさん集まってきて、土の色は黒くなります。黒ボク土の下にある褐色の関東ロームだった層が黄色っぽくなっているのは、水気が多く湿っていることを示しています。赤みが減って、黄白色(アイボリー)になるのは鉄が流されているからです。大雨が降ると、表面はたいしたことがないのに、この黄色い層まで水が溜まって池のようになる。3~4日で引きますけどね。

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