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特集

ラウンドアップの風評を正す


同様の内容の単行本も多数が出版され、それがSNSなどを通じて拡散し、多くの人の「常識」になってしまった。それらが流す内容は、「モンサント社はベトナム戦争で使われた枯葉剤を作った最悪の企業」、「ラウンドアップにも遺伝子組換え作物にも発がん性があるにもかかわらず、モンサント社と政治の癒着の中でその事実が隠されている」、「科学的データを出そうとするとセラリーニ教授のように弾圧され排除される」、「こうしてモンサント社のような世界的大企業が政治を動かし、作物の種子を独占し、世界の農業を支配しようとしている」などの陰謀論である。米国の調査では国民の半分以上がこのような途方もない陰謀論を信じているという。
それではラウンドアップの安全性に問題はあるのだろうか。

(5)ラウンドアップの安全性

「ラウンドアップは危険」という話が時々出てきて話題になった。その一つが、遺伝子組換えに反対しているフランスのセラリーニ教授が2012年に発表した、ラウンドアップがラットの乳がんを増やすという論文である。多くのメディアがこれを報道して不安が広がった。しかし、それまでの多くの研究でラウンドアップには発がん性がないことが確認されている。それなのにこの論文だけが発がん性があると主張している理由について多くの研究者が検証した結果、論文に科学的な誤りがあることが分かった。この実験に使われたラットは自然の状態でも加齢とともに多くのがんができる種類であり、実験に使われたラットの数が少なかったので、自然にできるがんとそれ以外のがんを区別することが難しく、自然にできたがんをラウンドアップの影響にしてしまったのだ。多くの批判の結果、この論文は取り消された。これはモンサント社の陰謀だとセラリーニ教授は主張したが、まともな研究者が信じる話ではない。ところが、別の科学雑誌がこれをそのまま掲載し、現在も読むことができる。このことは一部の研究者と科学雑誌には問題があることと、これまでの定説と違う論文が出たと言って大騒ぎをすると間違えることを示している。
大きな誤解を招いたのが国際がん研究機関(IARC)の発表である。IARCの仕事は化学物質などに発がん性があることを示す「根拠の強さ」を評価することで、その物質の発がん性の強さや、実際にがんを起こすリスクがあるのかは評価していない。といっても分かりにくいので、IARCの評価結果(表)で説明する。グループ1は「発がん性を示す十分な証拠があるもの」だが、ここに加工肉(ハム、ソーセージ、ベーコンなど)、たばこ、酒、エックス線などが含まれる。ここまでがIARCの仕事である。そこから先はリスク評価機関が行なう仕事で、その評価結果によれば、たばこは発がん性が強く、実際にがんを引き起こすが、ハムやベーコンは発がん性が弱く、がんを引き起こす可能性は小さい。グループ2Aは「ヒトに対しておそらく発がん性がある」ものだが、ここにはコーヒーに含まれるカフェ酸が入っている。これを見て「コーヒーは危険」と思うのは間違いで、カフェ酸の発がん性は弱いのでIARCもコーヒーをグループ2Aには入れていない。

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