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ラウンドアップの風評を正す


日本の食品安全委員会(Food Safety Commission of Japan)では、IARCの報告を考慮した上で、提出されたすべての安全性試験データを再評価し、グリホサートの安全性に関する見解を以下のように述べている(※8)。グリホサート原体の各種毒性試験結果から、グリホサート投与の影響は、主に体重(増加抑制)、消化管(下痢、盲腸重量増加、腸管拡張・粘膜肥厚等)及び肝臓(肝細胞肥大、ALP上昇等)にみられたが、遺伝毒性、発がん性、発生毒性、生殖毒性、神経毒性を示唆する所見は認められなかった。動物を用いたすべての毒性試験における最小無毒性量は100mg/kg/dayであったことから、安全係数100で除し、一日許容摂取量(Acceptable Daily Intake:ADI)を1mg/kg/dayと設定した。
その他、ドイツ(German Federal Institute for Risk Assessment)、カナダ(Health Canada Pest Management Regulatory Agency)、オーストラリア(Australian Pesticide and Veterinary Medicines Authority)、ニュージーランド(New Zealand Environmental Protection Agency)の規制当局ならびに欧州化学機関(ECHA)及び国際残留農薬専門家会議(FAO/WHO-JMPR)においても、「グリホサートの発がん性あるいは遺伝毒性の可能性は低い」という見解で一致している。

以上のように、各国の規制当局の見解は、「グリホサートには発がん性や遺伝毒性は認められず、ラベル表示された適用方法で使用する限りは安全である」という意見で一致している。農薬の登録に必要な試験の種類は各国の規制当局のテストガイドライン(EPA、OECD、MAFF等)によって定められており、使用者安全、消費者安全及び環境保全を担保することを目的に、表1及び2に示す如く原体及び製剤を含めさまざまな安全性試験が要求されており、医薬を含む化学物質の中では最も厳しい多彩な試験項目と検査内容が課せられている。また、そのテストガイドラインも今までに蓄積された膨大な試験データならびに関連情報と現代毒性学を含む幅広い科学的知見に基づいて作成されたものであり、加えてガイドラインに従う試験はGLP制度に準拠して実施されることから、試験結果の信頼性は極めて高い。すなわち、GLP試験は、試験計画書の作成から最終報告書の作成まで一連のプロセスを試験実施機関における信頼性保証部門(Quality Assurance Unit:QAU)によってチェックされ、試験から得られた生データが報告書に正確に反映されていることを確認した上で、報告書が最終化される。一方、IARCの発がん性評価は、対象とする作用因子(物理的、化学的、環境的因子等)のハザードに関する性質を定性的に評価し、その結果に基づき対象物質をグループ別に分類するものである。つまり、リスク評価に用いる安全性試験結果の定量的評価とは異なり、一般に公表されている学術論文等(一般にGLP試験のように信頼性保証部門による査察・審査は行なわれていないケースが多い)の中から陽性結果の報告を抽出し、それに基づき「疑わしきは罰する」というスタンスで評価されることから、陽性方向に傾く過評価Over-estimationに陥りやすく、偽陽性False-positiveを生み出す可能性は否定できない。また、IARCの指摘する疫学的調査によるグリホサートと非ホジキンリンパ腫との相関性についても、対象者が実際に暴露されたか否かとその被暴量がどの程度なのかが明らかにされていないので、因果関係を明らかにするにはかなり無理がある。疫学的調査は、ヒト集団について疾病の原因あるいは化学物質の有害影響を判断するために行なう調査研究で、ヒトへの影響を直接評価できる方法として有用性は高い。ただし、動物実験とは異なり、対象集団の大きさ、調査時期・期間、個人の生活習慣・環境、遺伝形質など評価に影響を与えるさまざまな交絡要因が存在するため、信頼性の高い調査結果を得るためには可能な限り正確な情報収集と統計解析を含め慎重な解析が必要である。すなわち、調査結果が対象集団及び関連情報の抽出法・範囲ならびに統計解析手法等によって左右されるため、可能な限り大きな集団から多くの正しい情報を収集することが重要であり、特に化学物質の場合には被験者のバイオモニタリング等(血液検査や尿検査など)により正確な暴露状況を定性的あるいは定量的に把握することが必須と思われる。これらの点を考慮して疫学の専門家集団が最近実施した疫学的調査結果(※9)では、グリホサート暴露と非ホジキンリンパ腫との間に因果関係はみられなかったと報告されている。IARCのように危険性を事前に察知して警鐘を鳴らすことはリスク軽減の観点からは意味があると思われるが、その根拠が不十分で確かでない場合には、いたずらに不安を煽り、社会を混乱に陥れる結果となり、人類が必要としているものを失う可能性も否定できない。食の安全に関してゼロリスクを求める姿勢は間違ってはいないが、余りこだわりすぎると何も食べられなくなり、生きる術を失ってしまう。現在世界人口は75億人で、2050年には100億を超えると予測されている。この巨大な人口を支えるためには農業増産による食料確保が必要であり、その農業生産には農薬は必須である。上記のグリホサートの安全性に関する規制当局の結論は、膨大なGLP試験結果に基づき現代毒性学・毒性病理学を含む最新の科学的知見に照らし合わせて導き出されたものであり、信頼性や客観性も高く、正しい判断と考えられる。したがって、グリホサートは、ラベルに表示された方法(適用作物残留基準値及び環境基準値がADIよりも小さくなるように散布量・時期・方法が指示されている)で使用される限り、ヒト及び環境に対し安全であると断言される。筆者としては、本稿が実際に使用される農業作業者及び一般消費者にとってグリホサートの安全性に関する正しい理解の一助になれば本望である。

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