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山道弘敬の本質から目を逸らすな

「ガラパゴス」、ここに極まれり!

2014年、筆者はカナダのノバスコシア州のアップルバレーのホテルで開かれていたカナダで最も古い140年もの歴史を誇るリンゴ生産者組合の会合に出席していた。
事の経過は以下の如くであった。当時筆者は、とあるリンゴ加工会社の原料貯蔵改善のために奔走していた。きっかけは東京の展示会に出展していたときにお客から提案を受けたことによる。その会社は秋田県と青森県の県境に位置する鹿角市に工場を擁しており、話を聞けば聞くほどとても惜しい農産加工場であった。国産のリンゴを加工してペストリー用のアップルパイを作る工場であり、国内シェアはナンバーワン、取引先は製パン大手やコンビニ大手など一流どころで占められていた。にもかかわらず、経営上は大きな問題を抱えていた。曰く、必要なリンゴ原料について、毎年いくらで入手できるのか、どれくらいの量が確保できるのか、いつから調達できるのか、まったく見通しが立たないという。そのため、毎年工場の無稼働期間が3カ月ほどあり、従業員はそのつど解雇されて原料のない夏場は失業手当で暮らしているという。
なぜこのようなことになるのか。背景には日本の農業における「加工」というものに対する中途半端な取り組みがある。日本の農業では加工で使用する原料は生食向けに販売できないいわゆる「すそ物」と決まっていた。ご多分に漏れず、このリンゴ加工会社もそのすそ物原料の調達・加工を基本としていた。秋になってリンゴが収穫され始めても、この工場では原料が手に入らない。なぜなら、農家は安くて金にならない「すそ物りんご」をあえて収穫しようとしないからだという。リンゴの収穫が終わって倉庫に収穫されたリンゴが納められ、その選別・出荷が始まって初めてすそ物が発生する。そこからやっと原料の調達が始まるという。ここには、ブローカーも暗躍して値段の駆け引きがあり、量も時期も値段も毎年見通しがまったく立たないというわけだ。
ところで、筆者はこの顧客との関係もあり、このころ海外のリンゴ栽培はどのようになっているのか興味を持ち、いろいろと調査していた。そして、気がついたのは日本のリンゴ栽培の収量の低さであった。米国西海岸に位置するワシントン州はこの国最大のリンゴの産地であるが、その統計を見ると2000年代に入って10?a当たり4tを超えている。一方、日本のリンゴ農家に収量を尋ねると10?a当たり2t程度だという。筆者は本当に米国のリンゴ栽培では日本の収量の2倍も採るのだろうかと疑問に思い、かねてより交流のあったカナダの研究者にメールで尋ねてみた。その研究所は先に触れたアップルバレーという町にあり、カナダでも歴史の古い果樹研究の中心であった。そこでリンゴのCA貯蔵の研究を長年続けて特許まで取得していたロバート・プランジ博士は筆者にノバスコシア州のリンゴ栽培指導書を送ってくれた。そこには2倍とは言わないが、10?a当たり3.5tを目標とする栽培体系が記されていた。あれやこれやと何度も質問を繰り返す筆者に煩わしさを感じたのか、プランジ博士はリンゴ生産組合の会合が年明けの1月に開催されるので、そこに参加して疑問を解消する機会としてはどうかと誘ってくれた。それで筆者はそこに参加することになったわけである。

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