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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第5回 自社畑拡大に積極的に取り組む「日本ワインはステータス」 サントリーワイン(東京都港区)
- 評論家 叶芳和
- 第25回 2019年05月31日
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サントリーワインも、時代の流れを読み、日本ワインに積極的に取り組み始めた。いま、国産の原料ブドウの確保に、一番積極的に取り組んでいるワインメーカーだ。
自社畑拡大の積極策 品種は「甲州」へのシフト
国産ブドウ100%のワイン造りは、大手メーカーにとっても、“ステータス”になってきた。従来は、大手は量を追求し輸入濃縮果汁に依存したワイン造り、中小は国産ブドウを原料とする日本ワインを造ってきたが、いまや大手メーカーも日本ワインに積極的である。低コスト大量生産の国産ワインに走るだけでは低級品イメージがある。そこで、高コストだが、国産ブドウ100%の日本ワインが会社のステータスとして位置づけられてきたのであろう。中でも日本固有品種「甲州」が脚光を浴びている。
サントリーの将来計画も、この流れにある。サントリーは現在、日本ワイン6万ケースのうち、5万ケースは1本(750ミリリットル)1000円台後半の甲州、マスカットベーリーAであるが、これを増やす方針だ。一方、山梨県の「登美の丘」(自社畑)のワインは4000円台の高価格であるが、ここは量より質を追求する。登美の丘をもっと表現し、もっと高いものを造っていく。1ha当たり単収は、量を増やす甲州は15tだが、品質を追求する登美の丘は10tと、凝縮したブドウを造る。
表5は、サントリーのブドウ調達計画である。山梨県甲斐市の自社畑25?ha(登美の丘ワイナリー)、農業生産法人による借地約10?haでブドウ供給を行なうほか、全国4カ所で農家と契約栽培している。
基幹の登美の丘ワイナリーは25?haと大きいが、ここは自社畑であり、現状は欧州系品種が主体になっているが、甲州種に植え替える。甲州の生産量を22年までに5倍に増やす。甲州の比率を3分の1にまで高める計画だ。
もう一つの注目点は、新規のブドウ供給基地の展開である。農業生産法人(子会社)を設立し、借地により、ブドウ栽培に乗り出した。長野県塩尻市では16年植栽、19年収穫予定、山梨県中央市では18年植栽、20年収穫予定、長野県立科町では16年植栽、19年収穫予定で、ブドウ供給を始める。3地区で約10?ha、うち約7haは甲州を植えた。サントリーの新戦略は「甲州シフト」が鮮明だ。
以上のように、16年から、サントリーの成長戦略は第2ステージに入っている。農家の高齢化等も背景だ。ワイン用ブドウ栽培面積を対16年比で22年までに約2倍に増やす方針である。特に、自社農園、農業生産法人の拡大を図る。ブドウ供給量では、現在、日本ワイン6万ケースであるが、25年にはこの1.5倍、約10万ケースを目指す。ただし、それでも、日本ワインの比率は同社の国内製造ワインの約2%、輸入ワインを含めた同社販売実績では1%台に過ぎない。日本ワインは「会社のステータス」というものの、大手資本の性格を修正するものではなさそうだ。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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