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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第5回 自社畑拡大に積極的に取り組む「日本ワインはステータス」 サントリーワイン(東京都港区)
- 評論家 叶芳和
- 第25回 2019年05月31日
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なお、山梨県中央市は耕作放棄地等の活用である。サントリーのワインビジネスも、農地の荒廃地化を防ぎ、地域の活性化に寄与している(企業のCSV活動については拙稿「シャトーメルシャン論」本連載現地ルポ第3回参照)。長野県の塩尻市は野菜畑、立科町は牧草地を転換したものである。
各地の契約栽培は、農協経由での取引であり、いずれも小面積である。栽培農家への技術指導を通し、耕作放棄地をブドウ栽培農地に転換を進めている。
技術力と資本力で競争力ある日本ワインになるか
サントリーは、ウイスキーも、ビールも造っている総合飲料メーカーだ。しかし、出発点はワインである。1899年(明治32)、大阪市に「鳥井商店」を開業(創業者:鳥井信治郎)、葡萄酒の製造販売を開始した。「日本人の味覚に合った洋酒をつくり、日本の洋酒文化を切り拓きたい」との思いがあったようだ。
当初はスペイン産の葡萄酒を輸入販売したが、1907年(明治40)、甘味葡萄酒「赤玉ポートワイン」発売。何度も失敗を重ねながら、時代に先駆ける新商品の開発に成功した。サントリーの原点はワイン造りであった。「赤玉」は1964年東京オリンピックの年には168万ケースの販売数量を記録したスーパースターだった。
赤玉の原料は当初、原料ワインを輸入していたが、戦後は新潟・岩の原葡萄園の川上善兵衛氏の協力を得て国産ブドウに切り替わった。塩尻ワイナリー(長野県)が赤玉の原料供給を担ってきた。「赤玉」はいまも、110年を超える歴史を経てサントリーのラインナップにある。
サントリーは、いま脚光を浴びている日本ワイン、特に「甲州」では出遅れ感があるものの、ワインビジネスの歴史は長い。総合酒類メーカーとして蓄積した醸造・蒸留技術を生かせば日本固有品種「甲州」も競争力あるワインに成長するであろう。
筆者の仮説は「産地は動く」である。日本のワイン産地は銘醸地になれるか? サントリーの技術力、資本力に期待したい。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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