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【土門「辛」聞】
ドローンはスマート農業の「旗手」たりえるのか
- 土門剛
- 第177回 2019年05月31日
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ドローンを開発した日本企業が逃した大魚
いまのようなドローンを最初に開発したのは、大阪の電子機器メーカー「キーエンス」。各種センサーや測定器などを製造していた。その技術を活かして角速度を検出するジャイロセンサーの特許を取得。そのセンサーを搭載した4つの回転翼で飛行する「室内用電動ラジコン円盤」をホビー向けに商品化したのが1980年代後半のことだった。
そのジャイロセンサーの特許が期限切れになるのを待っていた海外メーカーがあった。フランスの電子機器メーカー「パロット」だ。キーエンスのジャイロセンサーに改良を加えて高性能フライト・コントローラー(姿勢制御装置)を完成させた。2010年、それを搭載した「ARドローン」を市場に投入、ホビー向けでリバイバルさせた。スマートフォンの高機能化に着目してスマホ操作をセールスポイントにした。
これが爆発的にヒットした。スマホの電波帯なら、無線操縦するラジコン機と違い電波法の規制対象から外れて登録や免許など複雑な手続きが不要となる。その手軽さがユーザーに受けた。ユーザーから「スマホで操作して、モノが動き、飛ぶ、その動作に衝撃を受けた」という評価がいくつも寄せられたという。
その翌年、パロットはドローンにカメラを初搭載したホビー向け改良機を市場投入する。これも大ヒット。ユーザー評は「まるで空を飛びながら撮影しているみたい」。撮影を可能にしたことで、ドローンの利用領域を商業用へ拡げる糸口となった。ARドローンが売れたことでパロットはトップメーカーに躍り出た。
惜しいのは、キーエンスのその後の展開だ。ドローンの開発を中途半端にしてしまったことである。16年7月1日付け日経ビジネスは、革新的な技術を開発しながら商品化に失敗、日本企業が取り逃がした6つの「大魚」の1つと書いている。
キーエンスにとって不運だったのは、ジャイロセンサーの開発が四半世紀も早すぎたことだ。その後、ドローンを構成するコンピュータ、モーター、バッテリーの技術が急速に進展。その予測がついていたら、ホビー用で終わることはなかったのに、と思えてならない。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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