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専門家インタビュー

土壌学者(ペドロジスト)に聞く農地の土壌との付き合い方 後編~土壌断面調査から読み解く土づくり~

土壌学者(ペドロジスト)はその礎となる土壌調査を行なう土壌のプロフェッショナルだ。土壌に向き合い、その場に人を集めて、その価値を広めるために現場での土壌調査にこだわり続ける大倉利明氏に話を聞いた。「土壌保全基本法」の草案に託したのは、土に対する理解と愛情みたいなものを醸し出してほしいという思いである。そこには、研究者や生産者に限らず、広く一般市民にも土への認識を持ってもらいたいという願いが込められている。(取材日:2018年7月24日、取材・まとめ/加藤祐子)

なぜ日本の土壌分析は進化の歩みを止めたのか

――前回は現在の化学性ばかりの土壌分析に、物理性などの情報を組み合わせて、より現場の作物生産に関連づけた解釈が重要だというところまでお話を伺いました。その続きになりますが、日本では土壌分析の標準的な方法が確立されてから何十年間もそのやり方が変わっていません。率直にそのことをどう捉えていらっしゃいますか?
大倉利明氏(農研機構・農業環境変動研究センター・土壌資源評価ユニット長) 戦後から1980年代まで国の事業として行なってきた土壌調査だとか、処方箋・施肥基準の策定に関わる調査といった公共事業で培ってきた知見や、諸先輩方がやられてきた業績は大きいと思います。でも、やはり科学ですから、そこで止まってはいけません。それだけでは足りないと思うところがあって、私は土壌調査の結果をどう解釈するかという問題に立ち返っているわけです。先人の残したものを引き継いで、その上にどれだけ新しい技術を積み増しできるかが問われていると。単に過去の繰り返しをやっているわけではないんですよ。
――なかでも、変化が必要だと思われるのはどの項目でしょうか?
大倉 とくに変えていかないといけないと思うのは、リンの形態分析ですね。作物に必要なリンがどれだけあるのかというのと、その土壌がリンを貯められるかどうかというのをきちんと評価する分析手法は未完成だと思います。現在、日本で広く行なわれている分析法は確かにデータが蓄積されていて、経験的な正当性はあるのですが、土壌のなかで起きている化学反応みたいなものの全容が解明されているわけではありません。一般的には議論が終わったように思われていますけれども。
――その部分を研究されている方はいらっしゃるのですか?
大倉 そういう研究は誰もやりませんよ。分析法の研究というと基礎研究のなかでも、かなり基礎的なところになります。途中で失敗することもありますし、1年や2年で結果が出るものではありません。そういう研究を許してくれるような評価システムになっていないのが、現在の日本の研究機関の姿です。そうなると、世界頼みになるんですよ。よその国で有効な分析法が確立されたら、輸入しようというくらいのノリはあると思いますから。
――海外の研究に頼ることで問題は生じないのでしょうか?
大倉 残念ながら黒ボク土のリンの問題を考えるうえで、欧米の研究では埒が明きません。なぜなら、日本では黒ボク土が一番多いのですが、向こうにはないので、黒ボク土に適した分析方法を作れませんからね。

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