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さらにラウンドアップの風評を正す


以上で理解していただけただろうか。陪審員が判断するのは、完全な真実でもなければ、まして純粋な科学的な判断でもない。法廷で提供された証言、証拠に基づき、最後はYES・NOのクイズ方式で勝負が決まる。0.1%でも過失のもっともらしさが50%を超えると感じればYES、50%未満であればNOに付けるのだ。
裁判記録や動画を見て感じたのは、原告側に比べモンサント側の弁護士の説得力の弱さだ。その背景にはクライアントである農薬・化学メーカー特有の科学万能主義的な考え方が垣間見られる。科学的に正しい者が勝つと信じて疑わない思考と態度だ。これでは素人の陪審員は納得できず、裁判では負けてしまう。
いみじくも勝訴した弁護士リッツンバーグ氏はこう言っている。
「最も純粋な民主主義の形は陪審員制度である」「アメリカを動かしているのは企業かもしれないが、企業(モンサント)は陪審員たちに話しかけるすべを知らない」
同意するわけではないが、この弁護士には矜持がある。自分こそがアメリカ民主主義を体現し、陪審員に語りかけているのだ、と。
また、リッツンバーグ氏は今回の裁判に勝利した一因として、大学時代の恩師についても語っている。不法行為法の大家であるフィッシャー教授についてだ。絶えず原告に寄り添う教授を法律家としてリスペクトしており、裁判でも教授の教えが役に立ったという。
「裁判の冒頭陳述で、恩師から学んだ不法行為と因果関係の原則、とくにその真髄となる判例『ポールグラフ対ロング・アイランド鉄道会社事件』を引き合いに出しました。難解すぎて法律実務ではおそらく誰も言及しないものですが、私は使ったのです」
詳しい中身はわからないが、この裁判に臨むにあたって使えるものはすべて使い、周到な作戦を立て、勝ちにいった姿勢がうかがえる。

【陪審員の評決後、担当裁判官が懲罰的損害賠償額の全額却下を求めるも、全額には至らず】

最後に、本裁判の後日談を記しておく。
以上の陪審員の評決について、裁判官がすべてを追認したわけではない。担当裁判官のスーザン・ボラノス女史は懲罰的損害賠償額2億5000万ドルを全額却下するよう陪審員に求めたのだ。理由は、評決書の設問15と16で問われた被告の悪質性について、「原告は明白かつ説得力のある証拠を示さなかった」からだという。原告が提出したラウンドアップとがんとの関連性を示す論文やゴーストライター疑惑が証拠として不十分という意味だ。

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